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二人はきっと、末永く幸せに暮らしました( テーマ 誰よりも)



 幼い頃、その少女はお姫様と王子様の物語が好きだった。
 お姫様は辛い目に遭うが、最後には王子様が助けてくれるのだ。
 そして、「二人は末永く幸せに暮らしました」で、話は終わる。

 少女は成長するにつれ、自分はお姫様ではなく、王子様も現実にはいないとわかってきていたが、同時に漫画などで、『 私にとっての王子様』がいるのではないかと、現実に近い形に夢は変化した。

 そして、それは半分だけ実現する。

 すなわち、だれかに恋をするのである。



 特にきっかけはなかった。

 それどころか、ろくにどういう人が知りもしない。
 クラスで一緒になった男子に一目惚れ。

 初めての心の変調に戸惑いつつも、彼女は、そうか、これが恋なのだ、王子様とお姫様のあれなのだ、と思った。

 寝ても覚めてもその男子のことが頭を離れず、少女は悩むようになった。



 仲の良い女子のグループがあれば、様々な話題に花が咲く。
 美味しいスイーツの店、腕の良い美容院、どの先生が素敵か。
 そして、王道は気になる人の有無である。

「 え!?好きな人できたの!?あんた前に初恋まだって言ってなかった?」
「 うそ、初恋!?」
 本人としては、この心をどうしたら良いのか、相談のつもりで話をしたが、彼女らはどうやってその男子とくっつけるかという話に即座に移行してしまった。
 その男子が、グループの誰の好きな人とも被っていなかったことも、重要な点であったろう。

 共通の友達を幾人か介して、皆で映画に行こうということになった。
 
 少女は、小遣い制の厳しい財布事情の中、映画と、その後のスイーツ店までのお金をやりくりした。



 映画は面白かった。
 むしろ面白すぎたことが問題だったのかもしれない。
 仲良しグループから縁をたどる過程で10人まで膨れ上がった映画ツアー隊は、そのままスイーツ店での大映画感想会となってしまった。
 意中の男子は、一緒に来た別の男子と感想を熱く語っていたが、少女とはそもそも近くの席にもならなかった。


 その後も少女と意中の男子は特に話すことなく、会は終わってしまった。

 仲良しグループは、最初、少女の消極的な態度を責めたが、結局は映画が面白すぎたからだと言い始め、結局、次は頑張ろう、ということになった。

 少女は、気になった男子がどういう人か知ることができたので、少し満足だった。
 胸の高鳴りも、少しだけ水位が低くなった気もした。



 次はカラオケに行った。
 前回の轍を踏まないように、人数を抑えた6人。

 仲良しグループと男子グループだけの会だ。

 仲良しグループは、奥手の少女がカラオケで歌えるかも確認する慎重ぶりを見せた。

 男子と少女は隣の席になり、順番に歌うというカラオケの性質上、空気に乗ってお互いに配慮を見せた。

 自然と話もする。

 少女はまた少し、その男子のことを知った。

 また少し、心の水位は下がり、少女は落ち着いてきた。



 仲良しグループはダメ押しで今度は一緒に花火大会に行き、そこで少女は思い切って伝えてみた。

「一目惚れです。付き合ってくれませんか。」

 付き合うことになった。

 付き合ってみて、遊びに行ったり学校でお昼を一緒に食べたりする中で、少女の心は一方で満足し、一方で少女の心の中にある「何か」の水位は下がっていった。

 恋人となった男子は、普通の男子であり、この歳の少年としては気遣って少女と接してくれたが、その度に、少女から見て「特別ななにか」を感じる機会は減っていった。

 少女は恋人を知るたび、恋人にときめきを感じなくなっていった。

 そして、ある時、「誰よりも」特別であった恋人が、自分にとって特別でなくなってしまったと感じた。



 しばらく付き合いは続いていたが、恋人が少女にもっと深い関係を望むようになってきたと感じ、少女は泣きながら恋人に別れを告げた。

 恋人だった男子は、少女のことを理解できなかった。

『勝手に好きになって、勝手に冷めたのかな。』
 後に、落ち着いてから、彼は友人にそう言っていた。



「心って何なんだろう」

 少女は、かつての仲良しグループからも少し疎遠になった。付き合うためにグループとして動いて、男子のグループとも交流があったため、男子を振った情報が男子側から入り、気まずくなったのである。

 グループの仲間は気遣ってくれたが、自分でも自分がよくわからなかった。

(これじゃ、恋なんてただの病気じゃない。心が痛くなったから付き合って、痛くなくなったら仲良くしようとも思わなくなったから別れる。)

 少女は、かつて誰よりも好きだった男子を見ても、もうほとんど心は動かなかった。

 彼は、少女の中で、もう『誰よりも』ではなかった。


 そう思う自分に、少し腹がたった。

(お話の中のお姫様と王子様は、末永く幸せに暮らしたと思っていたのに……。)

 それとも、自分の心が普通と違って、ものすごくロクデナシなのではないか。

 少女が次の恋をしたときに一体どうするのか、少女自身にも、まだ分からない。

2/17/2024, 9:53:14 AM