朗々

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強気な子供が怯えて布団にくるまるような時間帯に、公園の敷地を跨いだ。目的は某キラキラフェイスブックモドキアプリで流行っているらしい新作のアイスを、とことん寒いところで食べたいなと、なんとなく思ったから。左手によっかけたコンビニの袋から感じる、ひんやりとした冷気。

「へへ」

唇の端から垂れ落ちそうになる唾液をぐい、と押し込んだ。給食前のわんぱくボーイか、俺は。いい年した成人男性が何をしているんだと正気に戻りかけたそのとき、すっかり通り過ぎた入り口の方から足音が聞こえてきた。こんな時間にランニングとはご苦労なことで、と徐々に増え始めた体重を知らんふりしている己の体に乾いた笑いをこぼして、すぐ。トタタタッ、と近づいてきたその音は、共犯か否か。

「ひっ、……〜〜〜〜〜〜ぅ"ぇ〜〜〜〜〜」

かわいらしいふんわりと下半身を覆う花柄のスカート、きらめく目元のアイシャドウ。上半身に纏っている、秋らしい半袖とカーディガンという組み合わせ。まず間違いなく、共犯ではない。そして恐らく、学生時代を三人の友人とだけで過ごした俺とは、確実に別の人種だろうと。てか泣きながら深夜の公園駆け込み寺ってなんだ、ジブリかよ。ただのアイス好きな小心者の俺がそんなことを言えるわけもなく、かといって今、コンビニの袋をわさわさとかき回すような真似すらできず。

「っく、ぅ、ひっ、っう、ぅ"〜〜〜〜〜」

ひっくひっくと子どものように泣く女性。ここまできれいにおめかししてそんな泣くことある?マジでどうしたんだと本気で心配になってきた俺が、行き場のない手のひらをくるくるとかき回していれば、まるでそこが予約席でしたよ、と言わんばかりの貫禄で、彼女はブランコの座席に腰掛ける。怪我が治って自分の足で歩けそうな風景だな、と金曜ロードショーに感化された脳でそう述べていれば、彼女はナイアガラのように流れ行く涙を留めることもなく、いきなり鉄臭い持ち手を掴み、小さな白色のパンプスをぐり、と地面に擦り付けながら、思い切りブランコを漕ぎ始めた。編み込みのやわい栗色の髪の毛が宙を舞う。

自分の腕の関節に飾られたままの袋が擦れる音は、しっとりとした水音を含んでいる。もうきっと溶け出したこれは、食べ頃なのだろう。スプーンは、入れていたっけか。そもそもこのアイス、何味なんだっけ?
随分と長引いた夏の陽気に叱られたかわいらしい秋が流した風が、包み込むような風が、真紅な頬を撫ぜる。秋だというのに。熱を持った身体とやけに耳を打つ鼓動の音に、どう言い訳をしたら良いんだろう。
たぶん、諦める他にないのだけれど。

彼女のスカートの透けた向こうで笑いを携えているお月さまに笑顔を返して、一生分の勇気と少しばかりの期待を持ちながら、左手の行く先を探しに、季節外れないちご味のアイスをかかえながら、僕は空から降ってきたような彼女の元へ駆けていった。さて、まずはどう声をかけようか。


踊りませんか?

10/4/2024, 10:55:48 AM