ぱう

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言葉はいらない、ただ…。

冬の夜。街は冷たい風まで包まれ、明かりがキラキラと輝いている。
雪が舞う中、小さなカフェで私と彼氏、彰はデートをしていた。
暖かい飲み物がテーブルの上に置かれ、私達はたわいのない会話で盛り上がる。
彰はいつもの様に、にこやかに微笑みながら「好きだよ。」と言い、私の手を優しく握る。
嗚呼、まただ。
その言葉に、私の心は雪の様に冷たくなる。
そして、それは彼の手の温もりでも解ける事はない。
最近、彼の「好き」はあまりにも軽く、心から出たものではない様に感じてしまう。
私が悲しそうな時、不機嫌な時、嬉しそうな時。
彼はどんな時にでも、同じトーンで、同じ顔で私に「好きだよ」と愛を伝える。
もちろん、付き合いたてではこれがとても嬉しくて。
でも、最近では「好き」は私の機嫌が治る魔法の合言葉だとでも思っているのではないか、と思うのだ。
人の好意にこんな事を考えるのは失礼だと思う。
けれど、彼の「好き」が心からのものならば、私はその重みを感じたかった。
私は君の「好き」の言葉じゃなくて、「好き」という気持ちがほしい。
なんて、言えるはずもなく。
関係を壊したくない私にはただ。
「…私もだよ。」
そう笑顔で返すのが精一杯だった。

8/29/2024, 10:27:04 AM