hot eyes

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ここは、人間が住む予定となっている惑星。

今はまだ調査中で誰も住んでいない。

そして自分は、その調査に数週間前から駆り出されている。

「機体017号。異常無し。引き続き調査を行います」

本部に連絡を送り、再び開始する。
気づいただろうか。自分は人間ではない。
この惑星の調査をするためだけに生まれた人形だ。自分を作った博士は遠くに見えるあの青い星に住んでいる。

そうして今日も調査を終える所だった。

「こんにちは」

声のする方に顔を向ける。
「初めまして、僕は吹雪(ふぶき)です」
「.........初めまして、機体008号。お会いできて光栄です」
「ありがとう。ですが吹雪、という名前があります。機体008号ではなく」
「吹雪ですか。機体008号、我々は調査の為に作られた、ただの捨て駒に過ぎません。名前など不要かと」

「僕の博士がつけてくれたんです。君の名前は吹雪だって。博士が初めて僕にくれた物なんです。だから大事にしたい。覚えていたいんです。名前で呼んでほしいんです」

「成る程。機体008号の名称を吹雪に設定。これかは自分は貴方を吹雪と呼びます。よろしくお願いします吹雪」
「よろしくお願いします...あの、貴方の名前は?」
「機体017号とお呼びください」
「何か名前はないのですか?貴方を覚えるためなのですが...」
「自分は機体017号です」
「......わかりました、017号。よろしくお願いします」
自分達は冷たい握手を交わした。


「機体017号。異常無し。引き続き調整を行います」
今日も本部にそう送り、調査を終える。
「こんにちは、017号」
岩の影から顔を出したのは、吹雪だった。
「こんにちは吹雪。何か用でしょうか」
「いえ、ただ顔を見に来ただけです」
「用はないのでしょうか。でしたら自分は戻ります」
「ちょっと待ってください!あの...お話しませんか?夜明けまでまだ少し時間がありますし...」
吹雪はこちらの様子を伺うように見てきた。
「わかりました。お話する、という用ですね。少々お待ちください」
「あ、ここに座りませんか?丁度良いところに倒れた木が」
よいしょ、と吹雪は先に座る。
「お隣失礼します。本日はどのようなお話をなさいますか?」
「えっ、あぁ......お互いにここに来るまでの話をしませんか?僕はまだ貴方の事をよく知らないので...」
「機体情報は内部データに登載されています。ご覧になりますか」
「そういうことじゃなくて...貴方の口から聞きたいんです」
「わかりました。お喋りモードに切り替えます」

「じゃあまずは僕から話します。僕の博士は雪(ゆき)という名前の人です。雪はオールラウンダーでした。それ故に苦労することもあったそうです。そんな時、僕が出来たそうです。彼にとって初めての家族以外の友達の様な人。雪は僕に色んな事を教えてくれました。雪と離れるのは心細い気がしましたが、雪の為を思いここへ来ました」

「吹雪は雪が大切なのですね」
「家族ですから」

そう言って吹雪は微笑む。
「では、017号お願いします」
「...自分の博士の名は優雨(ゆう)と言います。優雨は17歳の時、自分の元となる1号を作ったそうです」

「優雨さんもオールラウンダーだったのですね」
「えぇ、ですが自分が作られた時には、既にそれらは過去の栄光となっていたそうです」
「栄光だとしても素晴らしい事です」

吹雪は適度に相づちを打つ。
「...こんな風に話していると、まるで恋人の用ですね」
「恋人とは恋の思いを寄せる相手です。自分は寄せていないので恋人ではありません」
「確かにそうかもしれません。ですが、友達ならどうでしょう。ピッタリではないでしょうか?」
「そうかもしれません」

なんだか不思議な会話だ。自分が自分でないようだ。

「では僕はこれで。おやすみなさい」

人形は眠る必要がないから、言う必要もないはずなのだが。


またこれも覚えていたい、なのか。



自分達は毎日不思議な会話をした。



そうして1年が経とうとした頃だった。

「017号、名前はいりませんか?」
「名前は不要かと」
「1年前も同じことを言っていましたね」

吹雪は笑う。どこが面白かったのかはわからない。

「僕は今、貴方にピッタリの名前を思い付いたんです。聞くだけ聞いてもらえませんか?」
「わかりました」

「017号、僕が考えた貴方への名前は
『夜(よる)』です」

「夜、ですか。何故でしょう」
「貴方の髪が、夜空のように青く、深く、綺麗だからです」
「...それだけですか?」
「それだけです。駄目でしたか?」
「いえ.........夜。わかりました。本日から自分の名称は夜です。よろしくお願いします吹雪」
「よろしくお願いします、夜。これで貴方を覚えていられます」

名前などなくても我々は記録することが出来るのに、とは心の中に仕舞った。

そうして10年後。吹雪は役目を終え、壊れた。

自分より何百年も長く生きていたそうだった。

最後に「貴方に会えて良かった」と言われた。

自分も彼に、貴方に会えて良かったと告げた。


人形は記録することが出来る、ただその時の感情は記録出来ない。

やっと、貴方の言っていた事に気づきました。

自分も忘れません、貴方のくれた名前を覚えたいる限り。

お題 「1000年先も」
出演 夜 吹雪 雪(名前) 優雨(名前)

2/3/2024, 4:38:47 PM