「私たち死ぬまで一緒だよ」
「もちろんさ。この手を離さない」
公園のベンチに座る一組のカップル。
彼らはお互いに手を握り合い、愛を語り合っていた。
だが二人の顔に喜びは無く、思いつめた表情をしている。
ベンチの端に置かれたラジオからは、悲しいメロディーが流れ彼らの悲壮感が際立つ。
「ああ、幸せ」
「僕もだ」
「でも、もうすぐお終いなのね」
その言葉を合図に二人は空を見上げる。
彼らの目に映るのは、視界いっぱいの流れ星。
文字通りの視界いっぱいであり、この数の流れ星など異常というほかは無かった。
「まるで世界の終わりだな」
「うん、でも最後はあなたと一緒でよかったわ」
「僕もだよ」
二人はお互いを見つめ合う。
そんな時、ラジオから流れていた曲が終わり、ラジオから司会の男の声が流れてくる。
「さあ、リクエストの『5年前のあの日』が終わったところで、隕石についての続報だ。
地球に接近していた大隕石<メテオ>は、核弾頭<ホーリー>によって無事破壊。
その破片も問題なく大気圏で燃え尽きたそうだ。
隕石による被害は無し。
素晴らしいね。
では次のリクエスト。
ペンネーム・アルテマさんから『J-E-N-O-V-A』。
さあ、行ってみよう」
司会の言葉と共に、テクノな音楽が流れてくる。
その曲を聞いて、二人は思わず吹き出してしまう。
「これじゃ『悲劇のカップルごっこ』できないね」
「この曲好きなんだけどねー」
二人は腹を抱えて笑い出す。
ひとしきり笑った後、男が口を開く。
「そういえば願い事した?」
「あっ、事忘れてた」
「やっぱり。……でも安心して。俺が代わりにしといたから」
「ありがとう。それで、なんてお願いしたの?」
「うーん、恥ずかしいから内緒」
「話ふっといてそれかい!気になるだろ。吐け―」
そうして二人は鬼ごっこを始め、公園内を走り回る。
いつもの賑やかな公園の風景。
雲一つない青空の下、二人の笑い声が響くのであった。
そして、ところ変わって地球から遠く離れたところの宇宙船。
そこにいる宇宙人たちは、公園のカップルとは反対に悲痛な面持ちで地球を眺めていた。
彼らは自分たちが移住する星を探すために、宇宙を旅する宇宙人。
長い旅の末、地球を発見し、地球を侵略せんと企んでいたのだ。
お察しの通り、あの隕石は宇宙人が差し向けたものである。
彼らは、地球に知性を持った生命体がいることは知っていた。
だが宇宙航行技術すらもたぬ知性体とは交渉の価値なしと判断し、邪魔な地球人を滅ぼすことを決定した。
地球に隕石を落とし、地球の生命を滅ぼした後で、ゆっくり地球を征服する……
その計画は完璧に思えた。
だが失敗した。
なんと地球人が隕石を破壊したのだ。
それもただ破壊するだけでなく、地表に被害が無いように計算をした上で、である。
宇宙人はただ恐怖するしかなかった。
隕石の接近を察知した地球政府が、『この隕石は破壊可能である』というアナウンスをしたことは知っている。
だがそのアナウンスはやせ我慢であり、不可能だと宇宙人は思っていた。
ところが地球人は隕石を軽く破壊した。
宇宙人自身にとってですら破壊困難であった隕石をだ。
もはや、疑う余地は無かった。
あの星の知性体は強力な兵器を保持している。
地球に関わるのは危険だ。
そして宇宙人たちは、万が一にも報復されるのを避けるため、即座に地球から離れることを決断する。
離脱の準備をしている中、一人の宇宙人が最後の破片が大気圏に突入するのを目撃する。
その破片は赤い光の尾を引き、すぐに消える。
それを見て、彼は思いだした。
地球には『流れ星に願いをかける』風習があることを。
『なんと馬鹿馬鹿しい。
流れ星と願いが叶う事は、なんの因果もないただの現実逃避。
これだから未開の星の知生体というものは……』
そう言って、地球人の風習を鼻で笑った彼……
しかし、今の彼は笑うことが出来なかった。
たとえ馬鹿馬鹿しくとも、地球人が現実逃避する気持ちが分かってしまったのだ。
無意味だと知りつつも、彼は流れ星に願う。
現実から目を背けるために、ただ願うしかなかった。
『願わくば、地球人が我々の存在に気づきませんように』
4/26/2024, 11:04:25 AM