「君は知らないもんね。」
そう言った彼女の表情は、酷く悲しそうに見えた。
「君と居ると、自分が馬鹿みたいに思える。」
俺は今、二ヶ月付き合った彼女に振られた。俺は、心の中で深い溜め息をついた。またこれだ。皆そう言って、俺から離れる。自分が馬鹿に見えるって、何なんだよ。
「また振られてたんだね。これで何回目?」
幼馴染の彼女は、可笑しそうに言った。
「うるせぇ。」
「おー。怖い怖い。」
こいつ、自分が彼氏と順調だからって。こいつが振られたら、大笑いしてやる。
「私、これからデートだから。またね〜。」
彼女は、笑顔で手を振ってきた。そして早足で、去っていった。俺は、嫌気が差した。明日は、惚気話を聞かされるんだろうなー。
あれから一週間。彼女は、学校に来ていない。
流石に心配になってきた俺は、彼女の家に訪れる事にした。幼馴染なだけあって家は隣同士。顔パスで家の中に入れた。そして、流れるように彼女の部屋に案内された。
「何で来たの?帰ってよ。」
彼女は不機嫌そうに言った。
「帰らねぇよ。理由聞くまでは。」
俺が言葉を返すと、彼女はより不機嫌になった。
「君には関係ないじゃん。」
「関係ないよ。でも、幼馴染じゃん。友達じゃん。」
彼女は暫く黙った。そして徐ろに口を開いた。
「彼氏に振られたんだよ。他に好きな子ができたって。」
はっ?それだけ?思わず言ってしまいそうになった。
「それだけって思ったでしょ。」
幼馴染、恐るべし。
「私は、君を振った子の理由が分かるよ。」
彼女は笑った。その笑みは、同情心を含んでいた。
「自分は本気の恋をしてるのに、君は本気にしてはくれない。そんなの、哀れで馬鹿みたいに思うもの。」
彼女の言葉に偽りはなかった。確かに俺は、恋をした事がない。付き合ってた子達にも、友達の延長としか思っていなかった。
「でも、しょうがないよね。君は知らないもんね。」
「何を?」
「恋をする事が、どれだけ必要か。どれだけ人を変えるのか。知らないもんね。」
彼女は悲しそうに、俺に言った。俺は何も言えなかった。
あれから一ヶ月して、彼女は学校に来るようになった。俺はこの一ヶ月、彼女の言葉を忘れた事はない。そして何も思いつかなかった。恋を知らないと言われても、恋なんて与えられるわけでもないんだ。どうやって知るんだよ。
「恋って何なんだろう。」
「ポエマーかよ。恋なんて見つけるものだよ。」
彼女は淡々と言った。こっちの気も知らないで。彼女は俺の気持ちを察したのか、悪戯っぽく笑った。
「まぁ、君には無理かもね。」
その時、咄嗟に言葉が出た。俺らしくない言葉が。
「じゃあ、君に恋をしていいですか?」
「本気なら、良いよ。」
9/12/2024, 12:59:23 PM