夜空を超えて
この街の屋根の向こう、星が流れる。
今日という一日が終わった場所。
ベランダに出ると、クロがついてきた。
夜の冷たさとは無縁の、
あたたかい毛並みが足に触れる。
「クロ、あそこだよ」
指差す先に、銀色の月。
まるで、誰かの落とした大きなコインみたいだ。
クロは空を見上げない。
わたしの顔を見る。
たぶん、この子の宇宙はわたしの腕の中にある。
わたしが夜空の遥か遠くに心を飛ばすとき、
クロは地面にいる。
けれど、それでいい。
わたしの「超えて」ゆく想いと、
クロの「ここにいるよ」という体温。
そのふたつが、
この夜を一番、穏やかな場所にしてくれる。
12/11/2025, 2:12:35 PM