暗がりの中で
固めのスプリング。
先ほどまで皺一つなかった糊のきいたシーツ。
白さが際立っていたそれが今はどこかくすんで見える。
静謐の中、空気清浄機の微かなホワイトノイズだけが統治するベッドの上で、背を向けて眠る年若な男。
腰骨の細さが妙に艶かしさを助長して見せている。
さぁ、起きて!
そう言って叩き起こしてしまえばいい。
ただそれだけのことなのに、暗がりの中、気付けばもう15分も逡巡しているではないか。
「ほら、風邪ひくよ。」
何だか悔しくて、わざと乱暴に髪を掻き混ぜてやった。
振り向きざまに私の腕を掴んだその手の力が思いの外強くてハッとする。
「わかった……起きるからあと5分だけこうさせて。」
その両腕に絡め取られ、途端に息苦しいほど抱き留められる。
暗がりに鬼を繋ぐが如く、とはこのことか。
お題
暗がりの中で
10/28/2024, 3:39:56 PM