言葉はいらない、ただ……
「言葉はいらない、ただ……お互いを見つめ合うだけで、君たちは愛を確認できるんだねっ!!」
緑くんは叫んだ。
叫ぶのはいつものことだが、内容が問題である。
「緑くん、僕らは愛を確認してたんじゃなくて、目を逸らしたら負けゲームをしてただけだ」
「そういうのネットでよく見る。やっぱり君たちは付き合ってるんだ!」
僕の後ろで片桐が縮こまっている。
「付き合ってないって。僕の恋愛対象は女性だよ」
緑くんは男どうしの恋愛をこよなく愛し、僕と片桐は付き合っていると思っている。妄想するのは自由だけど、口に出す、それも大声で叫ぶのはやめて頂きたい。僕ら以外にも多くのクラスメートが緑くんの頭の中でカップルにされている。
「ほら、片桐もなんとか言ったらどうだい」
片桐の肩に手を置く。片桐は自己主張が弱いタイプ。こんなんだから、緑くんに妄想されるんだよ。
「お、おれも……おれも、女の子しか」
緑くんはばっ、と耳を塞いだ。
「やめて、やめて!現実なんて大嫌いだよ!俺は妄想の世界で生きるって決めたんだ!」
それなら声に出すな。
緑くんは今にも泣きそうな表情で片桐の顔をのぞきこんだ。
「ねぇ片桐くん、そんなこと言われたら俺、泣いてしまうよ。片桐くんは足立くんが好き。そうなんでしょ?泣くよ?」
「う、ぅう……うん。」
「『うん。』じゃないだろ!」
僕は必死に、もうあらゆる言葉を使って片桐との関係を否定したが、緑くんは聞いちゃいなかった。
「ふふ……どっちが攻めかな。やっぱり片桐くん?へたれは攻めって、相場は決まってるし……でも足片も捨て難い……」
はあ。緑くんは妄想を垂れ流したまま、ふらふらとした足取りで帰って行った。大丈夫だろうか……。
「ごめん足立……おれ……」
「大丈夫大丈夫。どうせ来週には別の二人に興奮してるからさ」
しかしそんなことはなく、大学に入っても緑くんは僕らのBL小説を書き続けた。
8/29/2024, 10:39:32 PM