拝啓、静かなる森へ。僕はあなたのことが大嫌いです。
【拝啓、静かなる森へ】
「あっ、やっぱりここにいた! 絶対君の足音だと思ったんだ!」
「なんで足音だけで分かるの、怖……」
静かな森って嫌いだ。僕の足音が、君にはっきり聞こえてしまう。
「ねえ、君最近私のこと避けてるでしょ!」
「……別に」
静かな森って嫌いだ。僕の言葉の棘が、君にそのまま届いてしまう。
「……そっか」
静かな森って嫌いだ。君の先細りしていく声が、付け足すように、絞り出すように放たれた「ごめんね」まで、しっかり僕に伝わってしまう。
「……っ、待って!」
「……?」
「ごめん、その……。友達に、からかわれちゃって。恥ずかしく、なってた」
静かな森って嫌いだ。僕の情けない声の震えまで、きっと君は聞き取ってしまう。
「……だってあいつの言う通り、僕は、君のことが好きだから」
静かな森って嫌いだ。僕の心臓の跳ねる音まで、君にはっきり聞こえてしまう。
ファンファーレみたいに、小鳥のさえずりが響いて、でも森はすぐに元の静かな森に戻った。
5/11/2025, 9:31:43 AM