短編小説 しらたま

Open App

愛を叫ぶ。


 「失って閉まっては想いは伝わらないよ」
 偉い人か誰かがそう言っていたのをSNSで見かけた気がする。
 私は鏡の自分に目を向ける。
 寝癖が所どころ目立っていて衛生的とは言えず、これから遠くへ言ってしまう友人に見せられる姿でなかった。
 私は身支度をしなければならない。
 顔に冷たい冷水が突き刺さり、重い腕が髪を整える邪魔をする。
 この苦痛と友人との別れは天秤に賭けられるものなのだろうか。
 
 彼に会ってしまうのが怖い。
 別れを実感するからだ。

 彼と会ってしまうのが怖い。
 駅のホームで見送らなければならないからだ。

 それでも、やらない後悔よりやる後悔。
 今日、あの瞬間までは心への傷を考えてはならない。
 今、行動を起こせば悲しみを乗り越えられなかったかもしれない自分への手向けになる。


 「ありがとう。向こうでも元気でね。私の友人」


 何も死ぬわけじゃない。
 ただ、遠くへ行って未知の世界へ飛び込む勇者を見送るだけなんだ。
 いつか出会った時は、胸の中にある感情も水に溶けてゆくに違いない。
 だから、悲しくはない……はずだ。

 私の理性はここまでらしい。
 今だけは心を閉じてもいいよね。

5/11/2026, 10:40:21 AM