誰よりも幸せでいたい
今にも倒壊しそうなボロ小屋で、薄汚い歯をチラつかせながら彼はそう言った。
部屋には乾き掛けの絵の具と汚されたキャンバスが散らばっていた。
彼はまだ汚れていないそれを1つ手に取り、
いつかこいつを完成させたらと思うと不格好な笑顔が張り付いちまってよ
変な面で呟いていた。
閑古鳥が鳴いた。
志半ばという言葉がぴったりの、そんな人生だった。
高架下の廃墟は好事家の画廊になっている。
作者は誰も知らない。
もとより誰も興味がない。
ただ、乾いた絵の具と作品と称されるそれが弱者共の心を慰めていた。
なあ、お前は幸せになれたのか?
誰よりも心にこびり付いている男の顔を思い出す。
#誰よりも
2/16/2024, 3:04:10 PM