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どこにも行かないで




「どこにも行かないで」
呟かれた言葉は小さく掠れていて、普段の快活な彼から発された言葉だとは信じられないほど弱々しい。

俺の服の裾を掴む手も少し震えていた。俯いた表情は見えないけれど、苦しそうに歪んでいるのだろうか。

普段からもっとお互いの話をしていればよかった。そうすれば、彼にこんなことを言わせることもなかったのだろうか。

なんだか遠回りをしていたようだなと、震える手を握り込むとびくりと体を強張らせた彼はこちらを見上げた。瞳に溜まった涙が今にも溢れ出しそうで、場違いながらも綺麗だと思った。

「俺はどこにも行かないよ」
それを聞いた彼の瞳から涙がひとつ溢れた。

6/23/2025, 3:28:13 AM