かたいなか

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「そして、」がお題のおはなし。小ちゃな3個のエピソードを「そして、」で繋げて、ご紹介です。

夜にガッツリ雨予報のハロウィン。都内某所、某本物の魔女が店主をしている喫茶店。
外にちらほらコスプレさんが普通におりますので、
ハロウィンの間はバレないでしょと、東京に住まう本物の魔女、本物の魔法使いたちが、
魔女の喫茶店で、穏やかに交流しています。

大釜からパンプキンのベーススープを1杯貰って、
そこにそれぞれ、お気に入りのカスタマイズ。
パンプキンカレースープを楽しむ魔女もいれば、
パンプキンビーフシチューにする魔女もいます。
トマトスープと混ぜて、パンプキンミネストローネを楽しむのは、海外出身の魔法使いです。

「酷い目に遭った」
一味と唐辛子と少しの味噌を混ぜて、和風ピリ辛パンプキンスープを楽しむのは、別世界のドラゴン。
ドレスコードとして人間に変身して、ちゃぷ、ちゃぷ。ピリ辛を堪能しています。
「俺はてっきり、寒ければ寒いほど、北に行けば行くほど、辛い料理が増えるものだとばかり」

はいはい。大変でしたね。
隣で背中をポンするのはドラゴンの部下の人間。
『わかりやすい! 日本の郷土料理図鑑』なる書籍をテーブルに置いています。

「何かあったの?」
人語を話すハムスターが、カボチャの種の海でカボチャパーティーしながら聞きました。
「うん……うん。 実はですね……」
そして、部下さんが口を開きました。
そして、部下さんは上司ドラゴンのだいたい24時間程度を、語りだしました。

そして、 そして、 そして……

…——要するに、こういうことでした。
背景としてこのドラゴン、元々自分の心を静めるために、唐辛子の痛覚、すなわち辛味成分を●●年前から利用しておったのですが、
段々ピリ辛という概念を学習してきまして、
「こっち」の世界に仕事に来てからというもの、一味と七味と柚子胡椒を、覚えたのでした。

高い標高の雪国・長野県で大辛一味を知って、
深い豪雪の雪国・長野県で鬼殺し飴を知って、
そして、ドラゴン、推測しました。
『つまりこの世界は雪国に辛味料理が多いのでは』

ちょうどドラゴン、東京での仕事が一段落。
雪国出身の藤森という人間のアパートで、鶏軟骨とワサビモドキ、もとい柚子胡椒をきかせた海苔茶漬けを食っておったところ、
藤森がなんとなく付けておったテレビに、青森県の3文字が、映っておったのでした。

そうです例の県民番組です。●ン●ンショーです。

『青森は、雪国か』
別世界から来たドラゴン、藤森に聞きました。
『本州最北端。冬は平地で長野と同程度の最低気温になる、積雪の多い雪国です』
ドラゴンにお茶漬けの2杯目をよそってやりながら、雪国出身の藤森、答えました。

『遠いのか?』
『東京からは700キロ程度離れていますね』
『長野より、新潟より、寒いのか?』
『長野の方が寒い場合もあります。あそこは標高が、本当に高いので』

『そうか』

しゃぶしゃぶ、しゃぶしゃぶ。
ピリ辛海苔茶漬けを幸福にかき込んで、ドラゴン思いました——青森にも激辛料理があるに違いない。
『今日も美味かった。礼を言う』
代金のピン札柴三郎さんを1枚置いて、ドラゴンは夜空の闇にまぎれて、完全に溶け込んで、
そして、ドラゴンの翼で青森へ、びゅん!
行ってしまったのでした。

そして、ドラゴンは砂糖爆弾と出会いました。
そして、ドラゴンは諸事情で、甘いものは当分だいたい100年くらい、こりごりでした。
そして、そんなに甘いなんてドラゴン知りませんでしたので、つい、砂糖爆弾を買って食べました。

そうです。例のバターシュガーサンドです。

某じゃりじゃり英国サンドを食べた途端、
ドラゴンは「諸事情」をハッキリと、鮮明に、諸事情の人物の声まで思い出しました。

それはドラゴンを今の職場に引っこ抜いてきて、ドラゴンに大量のスイーツを食べさせて、
そして、ドラゴンに当分スイーツはこりごりな気分にさせた、張本人の声でした。

【ひもじい思いをしてきたんだね。
お菓子を食べる余裕も無いくらい、異世界移民を相手に戦って、傷ついて、心と魂を汚されて】

【もう大丈夫だ。これからは、美味いものをたくさん食おう。 さぁ。 お食べ。 お食べ……】

あの日、ドラゴンは大量のホイップクリームだの、ケーキだの、キャンディーだのを詰め込まれて、
口の中から、甘味意外が消え去ったのでした。
そして、ドラゴンは虚無目でスイーツを、口から胃袋へ流し込んでおったのでした……

それをドラゴン、青森のバターサンドでカッと思い出しましたので、もう条件反射で、
そして、東京にとんぼ返り、してきたのでした。

そして、 そして、 そして……

…——「と、いうことがあってだな」
最後に舞台は、魔女の喫茶店に戻ってきました。
「なぜだ、雪国には、激辛料理が多いのでは、ないのか、なぜだ、何故だ……」
ドラゴンはちゃぷちゃぷ、唐辛子と少しの味噌がきいた和風パンプキンスープを堪能しています。

「んんー、青森にも、清水森ナンバっていう、緑色の唐辛子があるらしいけどねぇ」
ま、僕は食べないけど。ハムスターは言いました。

「しみずもり、なんば」
「買ってこなかったの?ザンネンだったね」
「とうがらし……」

そうか、そうか。ドラゴンはしょんぼり。
ドラゴンの部下がポンポン、背中を叩きます。
そして、 そして、 おやおや、
その会話を、特に糖質爆弾サンドの絶品の話を、
聞いておった女性が、近くにひとり……
そこから先は、文字数、文字数。 おしまい。

10/31/2025, 4:53:40 AM