しとしとと降り始めた雨に少しだけ憂鬱な気持ちになりながら、骨の多い赤色の傘を差す。
勢いよく開く私の傘は、暗い景色に咲く花みたいになるだろう。
そんなところが気に入って、この傘を購入したのだ。
学校の玄関にある小さな階段の、下から2段分を飛んで着地したと同時に「美帆じゃん!」と軽い調子で声をかけられた。
振り返ると幼なじみの晃平。
「傘、入れてくれない?」
私の赤色の傘は、相合傘をするためには作られていないらしい。
いつも少しだけ窮屈になりながら、晃平を入れて歩いた。
持ち手は必ず晃平が持ってくれて、私にかからないように傾けてくれているので、別れの挨拶をするときにはいつも晃平の方が雨に打たれて濡れている。
私は知っていた。
晃平はいつだってきちんとしている人だということを。
毎朝必ず同じ時間に起きて、同じ時間に家を出ることを。
朝のニュース番組の星座占いまできちんと見て、順位が悪い日は少しだけ残念な気持ちになることを。
そして、いつでも折りたたみ傘を携帯していることを。
「あ、甘い匂い。イチジクかな?」
苔をたっぷりつけた土の匂いに加えて、弾けるようなイチジクと少しの青い匂い。
秋だな、と晃平が笑う。
私は晃平が好きだ。
【柔らかい雨】
11/7/2024, 8:31:24 AM