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 カーテンを左へと寄せてその裏に隠れていた窓を明らかにする。たったそれだけで室内の明るさは〝かろうじて見える〟から〝とてもよく見える〟にまで上がる。
 からりとした天候。突き抜けるような青さが朝から眩しくて堪らず、目を覆い隠して眩しさに呻く。
 今日こそは。今日こそは。明日こそは。今日こそは。明後日にはきっと。
 そんな夢を描きながら毎朝カーテンを開ける。
 けれども毎日毎日太陽は眩しく世界を照らす。隅々まで、余すことなくジリジリと攻撃するように。
 じわりと明るさにもどうにか目が慣れてくると、窓からすこしだけ距離を取って空を睨みつける。
 起床時刻に合わせていたテレビが電源を入れて、早速ニュースキャスターの声が流れ出す。
 ――劇的な降水量の減少から六年が経ちますが、人工降雨機の効果は薄く、緑地の減少を止めるにはまだまだ研究の必要性が訴えられています――
 何度も聞いたような内容にうんざりしながら、恨めしげに空を――そのさらに向こうにある太陽を見遣るのがやめられない。
 十年ほど前に戦争が起こった。
 その戦争は二年続き、最後にはとんでもない結末を迎えて、ひとつの国が終焉を告げる形で終戦したのだが……その終焉がもたらした置き土産は惑星の自転を歪めて、太陽との距離を狂わせた。
 世界の半分に渇水と暮れぬ昼という問題を。
 もう半分には低温と明けぬ夜という問題をそれぞれに残していった。
 雨がまともに降らなくなったこちら側の世界では、今では太陽は疎ましい存在だ。
 日光の九割を遮るカーテンやシャッターがなければ夜を作り出すこともできない。
 気が休まらないせいでこの数年で苛立たしそうにしている人々が地上に溢れかえっているが、そうでない人間のほうがレアだった。
 ――さて本日の天気は晴れ。ですが、ところにより数分ほどの雨が見込める地域があります。どうぞ素晴らしい一日をお過ごしください――
「雨!? どこっ――!」
 テレビからの音声に素早く振り返って世界地図が表示された画面を見るが、降雨地域は十数時間の移動が必要な場所だと気づいて落胆する。
 自身の身に雨が落ちてきたのは終戦の直後で、そこからはもう雨に打たれるという経験が皆無になってしまった。
 そしてこちら側の世界では、雨が降る日はなによりも最上の日と位置付けられるようになり、ああやって天気予報士が羨望を隠して祝う。
 ところにより雨が降るでしょう。
 その言葉をずっとずっと多くの人間たちが待ち続けている。遠くの誰かを羨みながら。

 そしてこの日も、太陽は一度も翳ることなく輝いていた。

#ところにより雨

3/24/2023, 5:52:57 PM