かたいなか

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「他人の、特に苦悩を、自分のことのように親身になって『共に感じること』が『同情』なら、
まさしく真の意味で同情できるのって、実は酷い花粉症なんじゃねぇかな、とか考えたのよ」
ネットに溢れる、事実とも虚構とも、あるいは販売促進を意図するだけとも認識可能な情報に、某所在住物書きは目を細め、ティッシュを1〜2枚。
北海道には天国があるという。スギとヒノキの自生しない、5月に少しシラカバが飛ぶ程度の天国が。

「やっぱさ、目鼻のつらさを知る同志だからこそ、花粉への怒りと怨嗟を燃やす同類だからこそ、『自分のこと』として、同情……」
同類だからこそ、上から目線でも下から目線でもなく、同じ位置から共感できるんじゃねぇかな。
物書きはため息を吐いた――釧路か。寒いかな。

――――――

前回の「枯葉」の投稿分から、まさかまさかの続き物。雨降る都内某所、某森深めの稲荷神社に、物言う不思議な子狐が、家族と一緒に住んでおりました。
昨日は子狐のお得意様、稲荷神社の参拝者さんから、おいしい雪中リンゴ約20個の差し入れ。
子狐には赤と黄色のリンゴの2種類にしか見えませんが、差し入れてくれた雪国出身いわく、赤3種類と黄色2種類、計5種類とのこと。
要するに都内価格4桁後半から5桁前半。コンコン子狐、よくよく覚えました。

なかなか美味しかったので、コンコン子狐、ご近所のガキんちょ呼びまして、つまり遊び仲間の化け猫と猫又と化け狸なのですが、
雨のしとしと歌う中、お茶会……もとい、緊急の極秘会談を開催したのでした。

「丁度良い茶飲み話、私仕入れてきたの」
猫又の雑貨屋の子が言いました。最近、「窓に貼るマスク」なる花粉症対策グッズが新入荷したそうです。
「私も途中から見たから、最初の方はよく知らないんだけどね。ともかく悪いお客さんのハナシ」

悪いお客さん。モンスターカスタマー。
和菓子屋の化け子狸と、惣菜屋の化け子猫、思い当たるところがあるらしく、身を乗り出します。
なんなら自分が遭遇したこと、対応したこともあるのです。その目は少し、同情に似ていました。

「私がお店に出た時には、もうアレだったの」
雑貨屋の子猫、ニャンニャン言いました。
「新入りのバイトさんが、チーフと一緒に対応してたわ。お店の中には、年配の常連さん3人と中年の良い冷やかしさんと、同じく中年のお得意さん」
で、初めて来たっぽいモンスターカスタマーさんが、値段が高過ぎるだの接客態度がおかしいだのって文句つけてたの。 子猫は付け足して、惣菜屋の化け子猫が持ってきた南国豚の焼き豚に、雪国の雪中リンゴのアップルソースを添えました。

「悪いお客さん、きっと自分の身の上話をしてたんだと思う。お金が無いとか、仕事が無いとか」
「うん」
「すっごく怒鳴ってて、すっごく大きい声だった」
「うん」
「悪いお客さん以外、全員シーンとしてた。みんなピリピリして。で、お金とか仕事とか無いっぽいその悪いお客さん、早口でバイトさんに怒鳴ったの。

『同情するより金よこせ』って。
バイトさん、◯◯よこせしか、聞き取れなかったんだと思う。きっと商品購入と勘違いしたのね。
『カードでしょうか現金でしょうか』だって。

……途端に年配の常連さんも中年のお得意さんも爆笑しちゃって、『名台詞が台無し!』って。
居心地悪くなった悪いお客さん、『SNSで叩いてやる』って、スゴスゴ帰ってった」
「ゴメンよく分かんない」
「大丈夫私も分かんない。でも帰ってった理由をクイズにすれば、そこそこ良い茶飲み話になるでしょ」

なんでだろう。雑貨屋の子猫が焼き豚をかじります。
なんでだろうね。惣菜屋の子猫が焼き豚に、アップルソースを追加してやります。
コンコン子狐、和菓子屋の子狸が淹れてくれるお茶のおかわりが欲しくて、子狸を見ますと、
ポンポコ子狸、クイズの答えを知ってるようで、モンカスさんへの哀れむ同情とも、常連客への笑う共感ともとれる顔して、数度、頷いておったのでした。
「うん。……うん」
ポンポコ子狸、子狐にだけ聞こえる声で言いました。
「『同情するなら』『カードですか』。現代的……」

2/21/2024, 3:19:43 AM