イオ

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 これは私への罰なのだろうか。
夕暮れ時、柔らかな光がこの世界を包み込む。
まるで聖書にある奇跡のように。
 母の命を犠牲にして生まれたこの体は欠陥品でしかなかった。誰かを愛することも恨むこともできないこの心は、何かを模倣することしか出来なかった。
友もいない、兄弟もいない自分には生きる価値があるのだろうか。わからない。でも、この禅問答もそろそろ終わりだろう。最後はこの白い天井でも見ながら穏やかにあっちに行こう。


 瞳を開ける。近くにあるあなたの顔。
その顔が私を見て弛緩する。私とは違う生気の宿った見慣れ顔。あなたの目には光が宿ってるいるように見える。いつもそう見えてならない。
 私を見るとあなたはいつもこう言う。大丈夫?って。
大丈夫な訳がない。だけど、あなたを見るとつい大丈夫って言ってしまう。なぜだろう。わからない。
 この間までは穏やかに逝こうと思っていたのに、今はこんなどうでもいいことが頭から離れない。あなたと話すことが楽しくて仕方がない。教えて欲しい。この気持ちは一体なんだろうか。


 もう限界だろう。枕元に死神がいる。
手足が動かない。指先の感覚が麻痺する。
 わかっていた、いつかこうなることは。
でも、目を背け続けた。そうすれば、すぐに明日にたどり着けると信じて。また、あなたに会えると思って。その笑顔を見れると願って。瞼が重い。なんとなくわかる。この目を閉じたらもう開けることは出来ない。
だから神様、お願いです。どうか、最後に一目、、、。

 ありがとう。あなたは最後に必ず来てくれる。
そんな焦った顔しないで。大丈夫。無理矢理手を伸ばす。私はまやかしの愛しか持てない。でも、これだけは本当だ、そう信じてもいいかな。最後くらいいいよね。
瞳を閉じる。

11/28/2023, 5:33:13 AM