「意外だな......もっと喋らない人かと思いました」
談笑中、酒場に似つかわしくない背丈の低い少年がぼそりと呟いた。
待ち人は依然裏のバックヤードから帰って来ず、もう一人いた少年も今は席を外している。
「心外だなぁ。私はこんなにもコミュニケーション強者だというのに!」
「そっすか」
周りが騒がしい環境のため、今だ!と少し芝居がかった反応をしてみたが、実に素っ気ない返答が返ってきてしまった。悲しい。
それと喋らないほうが楽だったのに、とか言うのは辞めなさい。私が困るんだわ私が。もう一人の少年が居なくなってからの空白数分がどれ程辛かったことか!話を切り出さなかった私も悪いけどね!
少年と同時にグラスを手に取り口に運ぶ。あまり喋らないのはお互い様、というのは共通認識らしい。こういうテレパシーじみた感覚の共有は嫌いじゃない。
「この酒場、良いですよね。微熱に浮かされたような気分になれる。まるであの時みたい」
「あの時?」
グラスを机に置いた少年が徐ろに口を開いた。
自然と聞き返した私に少年は、僕が元々無力だったのを思い出した時です、とはにかんだ笑いを溢した。
その瞬間、なんとなく私も微熱のような高揚感を感じた。
まるで心の中のピースが埋まったような、昔の力を取り戻したような、そんな気分に包まれた。
「微熱」
11/27/2023, 8:52:57 AM