『刹那』
相手は構えていた刀を納めると長く息を吐いた。居合の構えだ。初手さえ間合いから外れれば勝機はある、と自分を鼓舞するが、僅かに鯉口を切る音が聴こえて汗が吹き出る。刀が抜かれるときを見逃してはならない、と目を皿のようにしてじりじりと相手の出方をひたすらに待つ。
しかし瞬きひとつの後に急激な寒気に襲われて視界がぐらついた。刀の振られる音に目をやると居合はすでに抜かれ、鞘に納められようとしている。地を踏みしめる感覚がない。ぐらついた体がいやに軽い音を立てて地面に転がっていく。あの刹那の間に一刀両断されていたのかと理解し、身から出る血が顔を浸していくのを感じとった。
4/29/2024, 6:22:56 AM