夢の中へ落ちる寸前にかけたアラームで目が覚める。微睡みを許さないそれは、聞き慣れた声が止めてくれた。
肌に滑る白いシーツの感触、横にある温もり。
それらを断ち切るべく手足を動かそうとしたところで、口元に差し出される光沢。
これだけ、食べてって。頑張って作ったから。
売り物のように艶やかな表面、手入れを怠ることの無い綺麗な指先が摘むそれを、思わず指ごと食む。
勢いに負けて外側のコーティングが割れたのか、中からトロリと何かが薫った。
口から鼻に抜けるその香りに思わず吐き出そうとしてしまったが、くすり、と笑った君がそれを許さず、
こくり、と。
共に味わうことになる。
どうして、と声にならない言葉は相手に飲み込まれ、空洞へ吸い込まれていった。
後頭部にこびりついた眠気が、足りない酸素とむせ返る薫りによって全身へと回って。
微睡みを劈くアラームの音で再び目を開く。
慌ててスマホを探って今度は自分で止めるが、犯人の姿もない。
違和感と共に左手を見れば、誓いの証も姿を消していて。
慌てて立ち上がって部屋中を歩き回れば、離れた机にメモとともに転がっていた。
『おそよう
約束には遅刻かな?
上手く誤魔化せるといいね。
また来週、逢えるといいな』
『バレンタイン』
2/15/2023, 8:25:13 AM