久しぶりに家を出ると、世界は春の逆光の中にあった。
木の芽と土の匂いのする風が、綻ぶように吹いている。眩しさに思わず瞑った瞼の向こうで、懐かしい誰かが呼んだ気がした。
顔に当たる陽気を手で遮り、目を開けると、白く焼き付いていた世界が少しずつ落ち着いてくる。長い長い冬の間にすっかり荒れてしまった庭先。我関せずと、古い榊が若葉を広げて空を塞ぎ、精緻な葉脈を見せびらかしている。その遥か彼方を薄く引いた雲が流れ、過ぎた季節を追いかけるように消えていく。
世界は春の逆光の中にあった。
遅れぬように、私も駆け出した。
(逆光)
1/24/2024, 1:39:58 PM