kamo

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65視線の先には

喋る種類ですよ、と言われて小鳥を買ったが、頑張って教えても十年一度もしゃべらなかった。
まあそういうこともあるだろうとそれなりにかわいがり、大切に育てている。
このインコには、ちょっとした癖がある。
まるで何かにとりつかれたように、きぇー、きえーと暴れまわり、数分もすると大人しくなる。
ぴったり年に二回だ。
獣医に連れて行っても異常は見つからず、ほかにはおかしな様子もない。
私にとってはかわいいペットであるし、もうそっとしておくことにした。

午後十一時。残業を終えて部屋に帰ると、小鳥が暴れていた。
キエー!キエー!キェー!
鳥かごをがたがたと揺らしながら叫んでいる。
そのままばちんと体を打ち付け、そしてぴたりと、水を打ったように静かになった。
そして一言だけ叫んだ。
「オネガイ! セメテ、クビカラニシテ!」
お願い、せめて首からにして……?そう言ったのだろうか?
どういう意味だろう。十年飼ってはじめてしゃべった言葉なのに、意味が分からなくて少しがっかりした。
考えてもわからないので鳥にケガがないことを確認して眠ることにした。
夜中、パトカーのサイレンが聞こえてきて、うちのすぐそばで止まった。

翌朝、隣人が逮捕されたことを知った。
バラバラ殺人。盛り場でひっかけてきた女性ばかり、殺して解体し、捨てていたのだという。心底ぞっとした。
ぞっとしたのはそのこと自体にばかりではない。
犠牲者の数と時期だ。
ぴったり年に二人、二十人。
偶然なのかなんなのか分からない。小鳥を飼ったのと同じ期間、小鳥が騒いだのと同じタイミングだった。
そして最後に殺された女性は、生きたまま指を落とされそうになり「お願い、せめて首からにして」と叫んだのだという。
昨日の、午後十一時にだ。
小鳥は何度も聞いた言葉をようやく覚えるもののはず。どうして全く同じタイミングで、壁に阻まれて聞こえもしない隣の惨劇と同じ声が出せたのか。
ねえ。いったいどうしてだい?
私の目の前には、小鳥がいる。
静かな目をして、止まり木の上にたたずんでいる。
十年ずっと、しゃべらなかった鳥だ。
くいくいとその首が揺れている。
そういえばこの鳥は、壁の方を見ていることが多かった。

7/19/2023, 10:51:55 AM