お題【流れ星に願いを】
『祝祭』
星が流れた。
あんな、ナイフで宙を切り裂くような無愛想な光に、何を頼めというのか。
僕は縁側で膝を抱え、夜風が運ぶ、湿った土と古い蚊取り線香の匂いに鼻を曲げていた。隣では、妻が熱心に目を閉じている。彼女の祈りは、きっと平穏とか無病息災とか、おしろい粉のように白くて正しい形をしているのだろう。
それに引き換え、僕の心はどうだ。
明日になれば、また恥の上塗りのような一日が始まる。借金のこと、書きあぐねた原稿のこと、知人に会った時に浮かべる卑屈な愛想笑いのこと。そう思うと、流星の輝きさえ、僕の情けなさを照らし出すサーチライトのように思えて、ひどく胃が痛む。
願う権利なんて、僕にはない。
僕は、このろくでもない世界を愛しきれず、かといって捨て去る勇気もない、中途半端な道化なのだ。
救ってください、なんて、神様が忙しい時に言うべき言葉じゃあない。
「あなた、何か祈ったの?」
顔を上げた妻の瞳には、まだ流星の残像が宿っているようだった。
僕は、自分の胸に居座る冷え冷えとした虚無を隠すように、少しだけ口角を吊り上げてみせた。それはきっと、泣き出しそうな子供が無理をして笑う、あの醜い表情だったに違いない。
「いや。このまま、何ひとつ変わらなきゃいいと、そう思っただけだよ」
嘘じゃない。
僕は、この地獄を愛している。
4/25/2026, 11:20:59 PM