NoName

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君と同じ空間を共有している。
まるで時が止まったかのように。ひたすら。
君とずっとこの場所で、同じ空気を吸い続けたかった。
君が吐いた言葉を飲み込んでは咀嚼し、伝わってきた空気をまた伝わせて返す。
そうして、君との間に見えない道ができる。
…「じゃ」
そう呟き、君は別の世界へと消える。
ああ、また、この空間に一人きりだ。
せっかく築き上げた道は途切れ、私の中に、
君の言葉だけが溶け残る。
ふと、時計を見上げた。
…なんだ。止まってなんかいないじゃないか。
お前のせいだぞ。私が一人になってしまったのは。
そんな言葉が、また響く。
受け取り手はいない。ただ空気が揺らぐばかりだった。
時計の針は、静かに時を刻む。

2/6/2024, 12:42:14 PM