湯船遊作

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永遠に

深夜一時。
僕はベットの上でライターをつけた。口に咥えた煙草の先端が赤くなる。優しく吸ってやると、バニラの甘い匂いが口をいっぱいにした。
「煙草、吸うんだ」
隣で寝ている彼女が物欲しそうな目で見ていた。
しょうがないな。長い髪の毛を優しく撫でた。
「ずるい人。わたし、煙草嫌いなのよ」
「じゃあ消そうか?」
「いいわ。貴方、煙草を消したら構わず寝ちゃうでしょ」
「どうかな」
一吸いして、溜まった空気を存分に味わう。
「寝られるくらいなら、煙草を吸いながら撫でてくれた方がいいの。もう飽きちゃったんでしょ」
僕は笑った。
煙が一気に放出される。白煙がぼんやり浮かぶ。
おっといけない。これじゃ味わえないじゃないか。
「気付け薬みたいなもんだ」
また優しく吸った。
「また訳の分からないこと言って」
ゆっくり、舌の先で押し出すように煙る。薄めた蜜で作った綿菓子のような味がする。バニラの香りが漂った。
「いまの、本気だったの!」
彼女は目を大きく見開いていた。
「なんで嘘つくんだ」
「なんでも何も、あなた嘘つきじゃない」
「僕は君が好きだ」
「そういうところよ。またすぐに嘘をつく」
また吸った。
「そうやって煙草を吸えば誤魔化せると思って。ほんとに好きならそうは言わないわ。嘘つき!」
辛い。ソーダ水のような刺激がする。これはこれで美味しいけど、ちょっと切ない気もした。
「訳分からないわ。どうしてそんな酷い嘘を言えるのよ……」
彼女の瞼は腫れている。時々、すすり声が聞こえる。
「嘘じゃないんだ。君が好きなんだ」
また、吸った。
「なんで、なんで嘘じゃないのよ……」
彼女は深く俯いている。
「訳が分からないわ。明日は違う人を抱くのに、今はほんとに、心からそう言える貴方が、私には分からない……」
そう言うと、彼女は僕に背中を向けた。
煙は甘かった。小さく開けた口先から漏れ出るように逃げていく。
煙草を灰皿に捨てて、僕は背中から抱きしめた。
「やめて!」
「こうするだけだよ」
「やめてってば……!」
「……」
「やめてよ……」
「……」
「……」
しばらくするとすすり声が聞こえなくなった。
「……酷い男」
「ごめん」
「別にいいの……。分かってたことだから」
「ごめん」
「明日はいまの気持ち、忘れちゃうの?」
小さく頷いた。
「でも、今日あったことは覚えてる。明日には気持ちが変わっちゃうけど、今日君が好きだったことは変わらない事実なんだ」
「最低……」
彼女はそう言うと、振り返って僕をじっと見つめた。髪が乱れていた。
気づいたら恥ずかしいだろうな。
僕は彼女の乱れた髪を梳いた。

11/2/2023, 3:34:51 AM