靉葉

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「ねー、手袋1個貸して?」
手に息を吹きかけながら、彼女が言った。
そして、『えぇー、寒いよー』
と、笑いながら僕が言った。
「〇〇君ひっどーい、彼女が凍えそうだっていうのに。こういうときに彼女の言うことを素直に…」
『あー、はいはい。すいませんでした。…っと、はい、これでいい?』
僕は彼女の右手に手袋をはめながら言った。
僕の手には、左側だけ手袋が残されていた。
「…わかってんじゃん。ってか最初っから貸してよ!」
頬を膨らませながらそう言う彼女が可愛くて可愛くて、愛おしくてたまらなかった。
「てゆーかめっちゃおっきー。手何センチくらいあるの?」「ねぇねぇ、私の手と大きさ比べない?」
なんてこと言っている。
はぁ、これだから僕がどんどん彼女に沼ってしまう。
僕の彼女は可愛すぎる。
その瞬間、たまらなく、彼女が欲しくなった。
僕だけのものにしたい。僕のものって証明したい。
だから、僕は…
学校からの帰り道、彼女と初めて‘’キス‘’をした。
彼女の唇は、とても柔らかくて、痛々しくも少しだけ乾燥していた。
「………っ」
彼女はとても驚いて、固まって、言葉も失っていた。そして、顔を赤くして照れていた。まぁ、それは僕も同じだろうけど。
そして、僕は微笑みながら、
『好きだよ。』
と言った。思わず口から零れ落ちた。どうしても今、伝えたかったから。
「わ、わわ、わたし、も、す、好き、だよ……大好き、だよっ…」
耳まで真っ赤に染めた彼女が、そう言った。
…可愛すぎる。
人目も気にせず、僕はもう一度キスをした。
2回目は、ちょっと長めに、
3回目、4回目は、もっと長めに…


彼女の右手、僕の左手には手袋。
彼女の左手、僕の右手は空いていた。
だから、僕は、手を繋いだ。
これも、初めて。
彼女の手はとても細くて、しなやかだった。そして、とても冷たかった。
彼女の手が氷のように冷たかったから、僕のポッケの中に、手を繋いだまま、いれた。
まるで、2人が繋がったような感覚だった。
どれもこれも初めてで、慣れないことをして恥ずかしかったけど、彼女との距離がまたひとつ縮まったような気がして、とても嬉しかった。
これ以上ないくらいに。


僕が手袋をしていなければ、こんなに彼女との距離が縮まることなんてなかったかもな。
あぁ、彼女が手袋をしてても、なかったか。
そういや、あの日の僕、本当に勇気あったな…
手を繋ぐよりも、ましてやハグよりも先にキスをしてしまうなんて…しかも、あんな…っ!
はぁ、恥ずかしいっ!けど、良かったと思うな…
なんてことを、時々考える。
彼女といる毎日が本当に幸せだ。
僕の、少しだけ古くなっていた手袋から大きく前進した僕と彼女の恋は、今でも大事に育んでいる。

12/27/2022, 3:02:13 PM