サルサが目を覚ますと知らない天井だった。いや、正確に言うなれば知っている天井ではあったのだが、見慣れない天井だった。そして、目が覚めた瞬間に視界に入れてはいけないような天井だったのだ。つまりはデウスがいつもいる部屋の天井だった訳である。
「……………………え」
そのことを理解したサルサは顔を真っ青にしながら飛び起きると目の前にプロムがいた。
「…………ぷ、プロムさん」
「おはよう。……腑抜けた顔をするな」
プロムはサルサの心情など気にも止めぬ様子でそう言った。
サルサが困惑しながら自分のことを見れば、いつの間にか城内で行動する時の服に着替えていることに気づいた。
部屋の中はいつもデウスに呼ばれる部屋とは違い、机や椅子が置いてあり、サルサは随分豪華な天蓋ベッドで眠っていたようだった。
「……安心しろ。ここはデウス様のお部屋ではないし、謁見の間でもない。俺の部屋だ」
「プロムさんの…………?」
「デウス様に明朝から呼ばれたのはウィルの方だ。随分時間がかかりそうだから今日の教育係が俺に任命された。だから手っ取り早く俺の部屋にワープさせて服もついでに着替えさせたわけだ、分かったか?」
「は、はい……」
困惑しながらもサルサが頷けば、プロムは満足気に鼻を鳴らした。
何故ウィルが呼ばれたのか、などと聞くような雰囲気にはとても見えなかったが、どうしても気になったサルサは小さな勇気を出して尋ねた。
「……ウィルさんは、何故」
「知らん。何故呼んだか、俺には教えて下さらなかった。だが、そうだな……呼んだ時の表情がやたら険しかったようには見えた」
「……そんな!」
サルサは驚いて、声を上げたが、プロムは自分の口元に人差し指を当てた。
「静かにしろ。どちらにせよ、デウス様は俺にとっては尊敬するお方、お前にとっては『神様』だ。決定は絶対で決して口を挟むことはできない。ただ、良い方向に向かうのを祈るのみだ」
プロムは目を伏せてそう言った。
「何故呼ばれたか分かるか?」
同時刻、ウィルは片膝をついてデウスの話を聞いていた。
「…………分かりかねます。申し訳ございません」
「……サルサの教育係になったのは誰だ?」
「私です。デウス様」
「…………お前は本当に教育係としての認識があるのか?」
「…………あります。彼を一人前にしようと努力をして……」
「本当に?」
デウスはウィルの言葉を遮ってもう一度聞いた。ウィルはその追求に言葉を詰まらせる。
「……進みが遅いことに関しては何も言わん。まだ一ヶ月であるからそもそもサルサが馴染めてない現状がある。ただな? あまりにも休みの日を作りすぎじゃないか、と言っているのだ」
「申し訳ございません……」
「お前はサルサに一番近い者として心身のケアをすることも重要だが、教育係としてこの世界に馴染ませることを第一に考えろ。…………来月もこのザマなら、教育係の変更も考えるぞ」
「まさか…………努力いたします」
ウィルは苦しそうにそう言った。
「今日はプロムを教育係にしている。お前は罰としてプロムがこなしていることを代わりにこなせ。そうそう難しいことをしているわけじゃない。ただ単純に仕事量が少々多いだけだからな」
デウスはそう命令し、ウィルは頷くしかなかった。
1/28/2025, 9:36:45 AM