曖昧

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目の前に1枚の紙がある。
おそらくB5サイズのその紙は、真っ白で何も書かれていない。

『それは自分が何者か知る為の紙じゃ。裏返してみろ』

神様のような人はそう言ったが、僕は半信半疑だった。
こんな紙切れ1枚で自分が知れる?
そんな話あるわけ無い。
だが、そもそも神様の声を聞き、このような得体の知れない紙を前にすると、少し試してみたい気にもなってしまった。

僕は深呼吸をして、その紙を裏返そうとした。
でも、勇気が出ない。
例えるならそう、家に虫が出た時、飛ぶんじゃないかと思うと怖くて中々倒せないあの感覚みたいな。

自分が何者なのか、知りたいのに知りたくない。
知ってしまったら戻れない。
もし仮に『クズ』とか『社会不適合者』とか『無能』とか『ゴキブリにも土下座が必要なぐらいにゴミ』とか書いてあったとしたら?
それは神様からそういう駄目人間の烙印を押されたのと等しい。




そして長い時間格闘した末に、僕は目を瞑ったまま紙を裏返した。
軽い。
こんなものに怖がっていたのか、と思いつつ、目を開けた。
何も書かれていなかった。

8/22/2024, 2:32:18 PM