香草

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「あなたのもとへ」


手のひらのふわふわとした感触が不思議だった。
おうちの絨毯みたいだけど、ちょっとだけ水々しくて
ぎゅっと潰しても頭を持ち上げる。

「それ気になるの?草っていうのよ。」
ママの声が頭の上から聞こえてきた。
くさ、くさ、草。
引っ張るとぷちっと取れた。
ママにどうぞしたい。
「ありがとう。パパにもあげようか。」
パパも喜んでくれるだろうな。
もう一度くさを引っ張ってパパを探した。
だがあたりを見回してもどこにもいない。
大変!パパ迷子になった!
ママに急いで伝えようとしてもママはニコニコするだけ。
不安で顔を歪めかけた時、
「おーい!こっちだよ!」と呼びかける声が聞こえた。
声の方を見ると、遠くでパパが腕を広げて座っていた。
パパいた!くさどうぞしたい!
今度こそ見失わないようにパパを見つめて駆け出す。
まだ慣れない靴が重くて、思うように走れない。
しかもかなり遠くて、足が疲れてしまった。
だけどパパにくさを見せてあげたくて、喜んで欲しくて必死に走る。
「えらいなー!よく頑張った!」
パパはそういうと、私を抱き上げぎゅっと抱きしめた。
パパくさだよ。どーぞ!
落とさないように、ずっと強く握りしめていた草はいつのまにかだらん、と頭を下げてしまっていた。
あれ、こんなじゃなかった気がする。
「ありがとう!いい匂いだねー」
パパはそう言って草を受け取った。
そしてまたぎゅっと抱きしめる。
パパが喜んでくれたならまあいっか!
握りしめていた手からは少し苦くて水々しい香りがした。

1/16/2025, 4:24:06 AM