“私の当たり前”
休日の朝。私は広いダブルベッドでゴロゴロ寝返りをうちながら君が来るのを待っている。君が起こしに来てくれるまで絶対にベッドから出ない。起こしにきた君が、ベッドに浅く腰掛けてフッと緩んだ口元から仕方ないなあとでもいうように息を吐くのに、気づかないふりをする。君が背中を丸くして、狸寝入りをしている私の前髪を軽く撫ぜたら今やっと起きましたって顔で瞼を持ち上げる。
視界が朝日に照らされてキラキラしてる君の顔でいっぱいになって、思わず口が綻びそうになるのを耐えてさも無理やり起こされてご機嫌ナナメですが?って顔を作る。そうしたら君は仕方ないなあって顔のまんまあやすようなキスをおでこにするから、それで私も仕方ないなあって腕を君の首に回してやる。それを合図に、君が今度はほっぺにキスを降らせてから私の身体を起こしてくれる。
スンっと鼻から息を吸うと、美味しそうなご飯の匂いがする。仕事がある日はデリバリーや外食を使うことが多いけれど君のお休みの日は、必ず朝ごはんを作ってくれる。仕事の日よりは少し遅くに私を起こさない様にひっそり起きて、ちょっと眠そうにふわふわキッチンへ消える君の背中を見送って、それからややあってリズミカルな料理の音に聞き耳を立てながら、今日の朝ごはんはなんだろうなって考えてるなんてことはおくびにも出さないで、寝起きですって顔をする。
「おはよう」
「おはよう。朝ごはん、何?」
「なんだと思う?」
私の寝癖だらけの髪を手で梳いている君は、いつもは素直に朝ごはんを教えてくれるけどたまにこうしてはぐらかすことがある。多分法則はないと思う。強いていうのなら、ご機嫌な日が多い気がする。
じゃあ今日はご機嫌なのかな、なんて思いながら君が手渡してくれた部屋着に着替えながら何度か匂いを嗅いでみる。焼いた卵の匂いがする気がする。
オムレツかなあと呟くと、君はにっこり笑って正解と言ってまたほっぺにキスをしてくる。当てられてちょっと気分良くなったところで差し出された手を取って立ち上がる。そのままエスコートされるみたいにダイニングテーブルまで連れて行かれると、想像していた通りのふかふかのオムレツが二つ、向かい合って置かれていた。
それぞれの定位置に座って、手を合わせる。
「いただきます」
ぴったり合った言葉に笑いながらご飯を食べる。こうして、私と君の当たり前の一日が始まる。
7/9/2024, 3:57:53 PM