阿古屋貝、子安貝、桜貝……。
古臭い磯の香りがする部屋。
爺ちゃんの書斎にある本を、めくると並んでいる。
『貝の本』。
ただ、それだけ書かれた表紙。
中は図鑑になっていて、両方のページに一つずつ、貝の絵と説明が載っている。
僕が、一番好きなのは、法螺貝である。
なんでかと言うと、爺ちゃんの書斎に本物が吊り下げられているからである。
それは、とても大きくて、斑点がついており、吹き口がついている。
一度、爺ちゃんがまだ生きているときに、吹いてもらったら、とても大きな音がして、ビックリしたことを覚えている。
爺ちゃんは漁師だった。
小さな船を持っていて、海に潜るのだ。
船は波間に錨を下ろし、鮑や、雲丹を採るのだ。
それらは、たまに食卓に並んだ。
だから、僕は貝の名前を沢山知っている。
鮑、牡蠣、蛤、田螺、どれも美味しい貝である。
身が食べる所が少ない貝も多い。
貝は、貝毒という毒を持っている物もいて、とても危ない貝もいるのである。
9/5/2023, 10:45:47 AM