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3「逃げられない」
8月21日
作戦立案から5日後

太陽が真っ白な壁に囲まれたベッドを照りつける。俺はすぐカーテンをしめ、ベッドのすぐ横にある棚の花瓶の水を入れ換えた。ふとベッドへと視線をやると今日はすやすやと眠っている事に気づく。
「俺が来たことにすら気づいてないだろうな」
そんなことを思いながら椅子に腰掛ける。ふと小雪が倒れた時のことを思い出す。
「どうして俺はあの時笑ってしまったんだろう。」
昔は困ってる人がいたら誰よりも速くその人のもとに駆けつけていた記憶がある。祖母が倒れた時は、祖母を病院まで担いでいったり......それなのに今はめんどくさいという理由で悲しんでいる小雪を見捨てようとしている。しかも言い訳に寝たきりの少女を使った.......徐々に俺が俺じゃなくなっていってる気がする。不安感と罪悪感に押しつぶされそうになりついベッドへと目をやってしまった。
今日の彼女はとても優しい寝顔を見せてくれていた。それが「大丈夫」と言ってくれている気がした。結局、俺は運命から逃れられないのだ。
俺は小雪達を改めて手伝う決心をし少女に「ありがとう」と感謝の言葉を告げ病室を後にした。

例の現場に行くとすでに健達が集まっていた。
大斗「よう!まってたぜ」と俺と、ほぼ同時に義勇に元気なあいさつをしてくれた。彼の明るさは俺の少し憂鬱だった心を明るく照らし、こっちもまで元気になった。
義勇「そんなデカイ声だしてら怪しまれるぞ」わりぃわりぃと悪びれることなく大斗はニヤニヤしている。この状況を楽しんでいるようだった。
小雪はそんな健を少し睨んだ。柊斗はまあまあと小雪をなだめつつ話し始める。
柊斗「さすがに35人全員がくるのは無理やったな。」
兎美「仕方ないよ、みんな夏休みはいろいろと忙しいもん。」
そう兎美が言いながら皆にお茶と菓子パンを手渡していく。
健勇「皆、自分なりに調査為てくれているはずだよ。」
健「今のうちに皆がどこで待ち伏せるか伝えておく。柊斗の組の仲間が、工事現場の向かいの部屋を借りてくれた。そこに3人ぐらい、車の中で3人ぐらい、買い出しとか雑用に2人。あとのあまりは聞き込み調査だ。あと兎美の雑用は決まってるから他に雑用やりたい奴いるかー?」
兎美「私に拒否権はないのか。」
大斗「ウサギだから人権もないぞ。」
兎美「ひどぉい」
いつもの流れだ。すこし和ませてくれる。受験のときもそうだった。 彼らは幼なじみでかなり親しい仲らしい。
そんな彼らの様子を見てすこし呆れたように義勇が話し出すら。
義勇「俺と御崎が車で待機する。すぐ動けるやつが車にいた方が良いだろう。それに御崎の組の車だ。なにかあったときにもな。」
大斗「じゃあ小雪と俺で健勇で部屋にで待機するか。」
皆、張り切った様子だ。しかし小雪、彼女はまだ感情の整理がつかない様子だった。
最終的に俺は部屋組の3人と同行することに、車組は義勇、柊斗、健達が待機することになった。

張り込み開始から3時間後
大斗はこの静寂で包まれた空間に耐えきれず小雪に声をかける。
大斗「おい、小雪なんか面白いこと......じゃなくて将とはどんな感じだったんだ?」
小雪「大斗ってホント最低だね」
大斗とはすこし傷ついたのかうつむいている。
小雪「将とは家の方向が同じだったからよく一緒に下校したり、寄り道したり......楽しかった」
彼女の目から涙が溢れそうになると、気まずくなったのか大斗は慌ててカーテンをあけ工事現場の監視を再開した。
健勇が小雪にハンカチを渡そうとしたとき、大斗が「あ!おい誰か工事現場に入ってくぞ!」と叫ぶ
小雪はハンカチを受け取り大斗が見ている窓に駆け寄った。
小雪「黒服......あからさまに怪しい。すぐ追いかけよう!」
健勇「待って!まずは健くん達に連絡だ。」
俺も窓からのぞき込み、「黒服」と呼ばれる人物を視認した。「黒服」は工事現場内入っていくと建設途中と思わしき建物の中に消えていった。
それはだいたい午後5時のことだった。俺たちは急いで工事現場前に向かう。そして車組と合流する。
皆、緊張しているようだ。
俺自身も心拍数が上がっていくのを感じる。「いくぞ」と声をかけ健達が工事現場の入口を静かに開く。いよいよだ、小雪のためにもあの少女のためにも、絶対に将の死の真相を突き止めてやる!
つづく

5/24/2024, 5:20:19 AM