Fujino

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窓から見える景色を眺めていると、今いるここが私の街だと言えるようなったと感じる。
もちろん「この街は私のものだ!」という意味ではなく、「ここが私が住んでいる街だ」という意味である。

ふるさとを離れて一人暮らしを始めてから、およそ10年が経った。
私の地元はドがつくほどの田舎なので、窓から見えるものといったら山や畑、田んぼしかなかった。

引っ越した先は都会というほどではないけれど、私が育った場所からすれば充分町中といえる。車通りも多く、昼間は子どもの遊び声がよく聞こえてくる。

田んぼなんてまったく見えないこの景色に最初は馴染めなかった。
ずいぶん遠くまで来たものだと思った。
地元を離れたのは自分の意志だったので後悔はなかったが、環境の変化が大きく慣れるまで苦労した。

けれどふと窓の外を見れば、この街のことがあれこれ分かるようになってきた。
あの辺りにはどんなお店があって、よく飲みに行く友達の家がどこにあるのか。遠くに見える橋の上から夕日がきれいに見えることとか。
そんな小さなことが積み重なって、ようやく「私の街」という実感が湧くようになった。

その代わりたまに帰るふるさとの景色がどこかよそよそしく、他人行儀に感じる。
それが少し寂しくて、でもきっとこの先戻ることはないだろうと思う。私は故郷ではないこの街で生きていく。


「窓から見える景色」

9/25/2024, 11:26:47 AM