いろ

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【タイムマシーン】

 タイムマシーンを使って、過去の恋人を不幸の連鎖から救いにいく男の物語。テレビの中で繰り広げられるフィクションを眺めながら、隣に座った君の手をそっと握りしめた。
 もしも僕の手の中にタイムマシーンがあったとして、僕は過去の君を救いにいってはあげられない。だって傷つくこともなくただ与えられる幸福を享受した君は、もう君じゃない。何度も挫折して、それでも自分の足で立ち上がり続けた今の君は、僕の前から永遠に消えてしまう。そんなのは絶対にごめんだった。
(だってその君は、僕を選ばない)
 輝かしいものも苦々しいものも、その全ての経験が今の君を形作って、そうして今の君だからこそ、君は僕と出会い僕を隣に置いてくれた。君の手を握る指に力を込めれば、君は呆れたように笑って僕の顔を覗き込んだ。
「また難しいこと考えてるでしょ。良いんだよ、私は私を救ってほしくないし、私も君を救おうとは思わない。私たちはそれで良いんだ」
 美しく微笑んで、君はテレビの電源を消す。落とされた唇の温度が、僕の心を優しく包んでくれた。

1/22/2024, 9:50:02 PM