『誰にも言えない秘密』
「これは誰にも言えない秘密だったんだけれどもね」
大きな木に寄りかかり、木漏れ日の下でまだらな陰影に身を染めた友人が囁くように告げる。軽く吹いた風が6月の青さを増した葉を揺らし、軽い音を立てて続く言葉を遮った。私は怪訝な顔をして、そんな友人を見つめ返した。何を言おうとしているのだろうか、澄んだ水に墨を一滴落としたように、ジワリと私の胸のうちに不安が広がる。
「どんな秘密なの」
聞きたくないと思いながら聞き返した私の声は僅かに震えていた。それを受けた友人は「それはね」と前置きをしてにっこりと笑った。
「この下に死体を埋めたんだ」
まだらな陽を受けた友人が、トントン、と一度掘り返された形跡のある足元の地面を蹴って鳴らす。
何を言っている?なにの?なんで?いつ?
様々な疑問が浮かんで、音にならないまま頭の中に反響して消えていった。
長いような短いような沈黙の後、最後に残った疑問がポロリと口から零れ落ちた。
「誰の……?」
「君の。だから良かったよ」
風に乗って、濃い土の匂いがしたような気がした。
6/6/2023, 9:59:01 AM