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みかんの缶詰。
お歳暮に貰った、緑色の缶詰。
缶切りで開けると、金色の缶詰の中にシロップ漬けのみかんが、たくさんはいっている。
水子みたいだと思う。
泣いては大河にこだまする、水子の霊のようだと思う。
お腹を腫らして泣きわめく母親たち。
三途の川の、カラカラと風車の回る頃。
酷く酩酊した調子で、鬼たちが叫ぶ。
嗚呼、娑婆はもうすぐ年の暮れ。
祇園精舎の鐘の声。暮れも年越す除夜の鐘。
死んだ童子の初盆の、暮れても泣いても暇はなく、乳子あやしたこの手は萎えて、栄枯盛衰暇もなし。
亡くなった子らの、生え揃った乳歯が乳を噛む。
滲んだ血の色が、乳に溶けて、みかんのようなオレンジ色をしていた。

12/29/2023, 10:15:09 AM