「ふふ、おはよう。最近君を狙う人が多くって多くって……。でも、俺が守ってあげるからね!」
目の前の男は、ニコニコとこっちに笑いかけた。今日もちゃんと処分したからね~、なんて言って。私の気持ちなんて知らない彼は、私の頭を撫でてきた。慈しむように、大切にするように―――でもそれは、彼の自己満足に過ぎないものだ。
この家ごとすべて牢屋に見えるここに連れてこられてから、1年が経った。急に連れてこられて……いわゆる、誘拐というものだ。それをされて、身代金を私の親に要求するかと思いきや、鍵で私を閉じ込める以外は何もしなかった。好きなものは何でもくれるし、たくさんお願いをしたら、学校にもいかせてくれる。迎えは絶対だと言われたけれど、ほかから見て誘拐だと思う人もいない。私の親も……私を愛していないから、私が帰ってこなくてむしろ好都合なのだろう。1年も家に帰っていないというのに、そして学校には行っているというのに、私はそういった話を聞かなかった。
「……私を狙う、人なんて」
いるわけないよ、とうすら笑う。
「えー!みんな狙ってるよぉ!俺が守るのも限度があるんだから、自己防衛意識はないと……!」
私の反応に、彼は首をぶんぶん横に振り、それから必死に私の手を掴んでそう言ってきた。かなり力が強めだ。本当にそう思っているのだろう。
親に愛されなかった私は、他人と言える男に愛された。
「好きだよ」
「……」
「?ねえ」
「……私も」
私を愛す彼は、私にも同じ感情を強要してくる。けど私には、もうそんなものどうでもいい。好きも、嫌いも。全て全てわからなくなってしまった。ただ、今は。痛い思いを、したくないだけ。彼は彼の好きに肯定を返せば、私に痛みを与えない。まだ、まだマシだ。あの親は、気分が悪い時工程も否定も関係なく理不尽に痛みを与えてくるのだから。
「幸せだね~!んふふ、いずれ結婚して……ハッピーエンドまっしぐらって感じ?」
「……ハッピーエンド……」
笑顔で幸せらしい彼は、そう言うけど。ハッピーエンドだなんて……この世にあるわけない。いつかこのつまらない平和も終わりを告げるだろう。いくらまだバレていないとはいえ、立派な誘拐ではあるのだから。大体、たとえ今終わったってハッピーエンドとは言えないだろう。もし仮に言えても……その対象は私ではなく彼だ。
「ふんふふーん。ご飯作ってくるね」
機嫌が良さそうな彼は、鼻歌を歌いながら笑顔だ。私は笑顔になれない。彼はその人生をさっき、ハッピーエンドまっしぐらといったけど。私のハッピーエンドは、いつか手に入るの?
今日も私は、バッドエンド。好きでもない男に抱きしめられて、今日が終わった。
3/29/2026, 1:51:45 PM