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誇らしさ

雨音が響く静かな夜
私が進むべき道はなんだろうか、本当にこれでいいのか、どうしたらいいのか
考えても答を得ない不安ばかりが溢れてくる
こんなときはただ、深い暗闇に沈んでしまいたい
なんのために、誰のために演奏するのか私はずっと迷っているままだ

溢れた不安を抱えたまま演奏会を迎えてしまった
今までどうしていたのかも上手く思い出せなくて、手が汗で濡れていた
先生や周りの仲間の声を聞いて少し落ち着いた私は、多くはなかったけれど隣で演奏する子と言葉を交わした
「いつも通り、楽しもうね」と明るく彼女は言った
いつも聞いていた彼女の奏でる音色は、まさにその性格を表すようにのびのびとしていて明るいものだった
私もその演奏に元気をもらっていたし、本当に素敵だと思った

少し思い出した
その音色を聞いて不思議と私まで演奏を楽しめるようになっていたんだ
私はいつも通り、演奏を楽しもうと思った
「間違えても、音割れしてもいい。練習を重ねてこの場に立っているのは紛れもないあなたたちなんだから。あなたたちが楽しんで演奏すれば、それは絶対に目の前にいる全てのお客さんに伝わるから、お客さんを踊らせてしまうぐらい楽しんで演奏しよう」という先生の言葉に後押しされた

ステージの照明が明るくなって拍手が送られた
目の前には多くのお客さんが集まっていた
これから私はここで演奏する
さっきまで抱えていた不安はもうどうでもよくなっていた
ただ楽しみだと感じていた
心の高まりだけを頼りに私はいつもの席に着く
隣には彼女がいる
とても温かい気持ちになった

みんなの息継ぎが揃う
今までのステージで一番息の合った演奏をしている
私は心から演奏を楽しんでいた
私が奏でているこの音色がみんなの音色と重なり合う
心地良い綺麗な旋律となって私の耳に届く
本当に楽しい
ずっとこの時間が続けばいいのにとさえ思った

続々と客席から大きな拍手が送られた
照明の奥にいるたくさんのお客さんが、顔は見えないけれど楽しんでくれている実感があった
感謝の気持ちで溢れていた

「今の演奏、めっちゃ良かったよ」
いつも1番近くで演奏していた彼女が言ってくれた
私はその瞬間、嬉しくて嬉しくて舞い上がった
のどのあたりと目頭がじわじわと熱くなるのを感じていた
今にも泣きそうだった
今までの全ては無駄なんかじゃなかったし、これでいいんだと
そして何よりその言葉は私に自信と誇りを与えてくれた
私の演奏はそうやって誰かに届いているんだと
今までたくさん考えては藻掻いて、このままではだめだと、私じゃだめなんだと決めつけてきた
私の演奏を聞いてくれる人がいること、ちゃんと届いていることが心の底から嬉しかった

私はこれからもきっと、この言葉を思い出しては自分を誇りに思えるんだろうと確信を持てた

8/16/2023, 12:44:44 PM