Frieden

Open App

「バカみたい」

38万712年と108日。貴方と俺が過ごした時間。
38万712年と108日。俺が貴方の為に犠牲にした時間。

貴方は永遠の国を、たったひとりで治める女王。
俺は貴方を守るために作られた、唯一無二で無敵の機械人形。
貴方も俺も、ずっと平和に暮らしていた。

俺が必要ないくらいに。

「私の後を継いでくれそうなのは、貴方くらいしかいないわね」
なんて冗談を言いながら、貴方は頑強に守られ、暮らしていた。

俺が好きだった、平和の象徴。
朝焼けの色、昼下がりの紅茶、貴方の暃色の髪、子守唄。

俺が好きだった街並。
色とりどりの屋根、機械仕掛けの噴水、清く白い女神像。

俺が好きだった、貴方の───

でも、貴方は数多の罪を犯していた。
国民に重税を課し、小さな国同士での戦争を嗾け、そして唯一神に成り代わろうとした。

俺は貴方が罪人だとも知らないまま、貴方を全力で守った。
貴方の平穏を守るために。
貴方を捕えようとする奴らを、モーニングスターとレーザー銃で蹴散らした。

天国のような純白の城が、あっという間に焼け野原になる。
宝石で作られたシャンデリアも、異国から来た調度品の数々も、全て粉々になった。

俺に敗れた犠牲者の悲鳴も、怒号も、命乞いも、俺の耳には届かない。平和を壊そうとしたのだから、聞く意味はない。

城は随分と壊れてしまったが、修復すれば問題ない。
俺の右腕も壊れてしまったが、修復すれば問題ない。

これで平穏を取り戻せる。そう思ったのに。
貴方は邪魔者に対して叫んだ。
「私は何も知らない!その暴走した機械が全てしたことよ!」

何の話かわからない。俺はただ、貴方の平穏を───
一瞬動きを止めた隙に、俺は残党に捕らわれてしまった。
なのに、貴方は俺の方すら向かなかった。

奴らは俺の話を聞かずに、俺を断頭台へと連れて行った。
俺は民衆の罵声を浴びてやっと気づいた。
貴方が大罪を犯していたことに。

じゃあ、俺は今まで、何をしていたんだ?
ずっと大罪人を庇い続けていた、のか?
永遠に崩れることのない栄光を守っていたわけではなかった?

最後をこんなところで、何の罪も犯していないのに迎える?
意味が、意味が分からない。
俺が生まれた意味も、貴方と過ごした時間も、全て、全てが無駄だった!!

俺は俺の全てを嘲笑した。
全てが!全てが無駄だった!!バカみたいじゃないか!!

「何か言い残したことはないか?」
処刑執行人は俺に言った。
「そんなものはない!さっさと俺を処分でもすればいい!」

こうして、俺は38万712年と108日の人生に終止符を打った。

3/23/2024, 10:31:35 AM