【君と紡ぐ物語】
連続/託す/来世/後世/交換日記
整理をしていると、棚から日記が出てきた。色んなキャラのシールが貼られた、ピンク色の表紙。整理の良さはこういうところにある。何気なく子供の無邪気さを懐かしむことができる。
表紙には交換日記と書いてあるけれど、はて、誰と日記だったっけ。整理が後回しになることを承知の上で、読んでみることにした。
4/1 おかあさんにこうかんにつきを買ってもらった。プりキュアがかわいい。
実に子供っぽい文章だ。脈絡もないし、漢字も書けてない。それどころかカタカナまで。それでも、私の考えていたことが頭に流れ込んでくるみたいで、思わず次を読んでしまう。
5/24 佐とうくんはさいきんどこに行ったの?
5/27 すいぞっかん。たのしかった。
5月のところで手が止まった。佐藤だ。まさか名前が出ると思ってなかったから驚いた。
5/28 わたしも行きたかったなー。つぎはいっしょに行こうね!
5/29 いいよ。せっかくだから安むらもよぶ?
5/30 ん〜。そのほおがいい?
5/31 みんないたほうがたのしいじゃん。
そこまで読んで、日記で顔を覆った。でもなんか佐藤の匂いを嗅いでるみたいで恥ずかしい。日記の代わりに手で顔を覆ってみた。
思い出した。そうだ、私は佐藤が好きでアピールしてたんだ。甘酸っぱい記憶だ。2人のデートに誘ったのに、佐藤って奴は他の女の子も誘おうとか言い出すんだから。とんだ好き者だ。ま、佐藤は何にも考えずに、ただいつものメンバーを誘おうとしただけなんだろうけど。
そのまま読み直そうとして、はっと当たりを見渡した。外が橙に染まっている。
やばい、ついハマってしまった。明日までに荷造りしないといけないのに……!
右手の日記を段ボールに放り入れた。
大切な記憶だ。大切な記憶だけれど、そう大事にする必要もない。だって、これからはわざわざ日記にしなくても、沢山思い出を作れるのだから。
「だから、そのためにも荷造りを頑張らないとね……」
山積みになった荷物を前に私は立ち竦むのだった。
主人公は引っ越しのために荷物整理をしている途中。その時ふと目に止まった交換日記が気になり読んでいる。初恋の相手とのウブなやり取りを楽しんでいると、いつの間にか時間が過ぎていた。業者は明日来るため、急がなければならない。日記への未練もあったが、これからは直接思い出を作ろうと思い至る。主人公は日記を段ボールに放り入れて、佐藤との新婚生活の前に、荷物整理を強いられるのであった。
12/1/2025, 7:20:12 AM