長いです。うーん。なんか気に入らない…
──────────────────
【また会いましょう】
誰かと再会を約束した気がするんだ。
とても大切な約束だったはずなんだ。
「また会いましょう」って言われて、僕も「絶対だよ」って、言ったはずなんだ。
だけど、相手を思い出せない。
名前も、顔も。
どんな人だったのかも。
ぽっかりと穴が開いているみたいな、パズルのピースが大きくひとつ足りないみたいな。
大事なものが欠けているのは間違いない。
でも、誰を探せばいいのかわからない。どこに行けば会えるのかわからない。
そもそも僕の生活には余裕がなかった。
孤児院に来た貴族の温情で、奨学金を受け取れることになって、学院の寮に入っている。
成績が下がって奨学金が打ち切られたら、どこにも行くあてなんかない。
人探しをしている場合じゃないんだ。
それでも、寂しくて恋しい。
顔もわからない相手なのに会いたくて。
きっと、本当に大事なひとだったんだと思う。
寂寥感を誤魔化しながら日々を過ごした。
進級して一年生が入学してきた。
その中に留学生として獣人の王女様がいると聞いて『近付きたくないなぁ』と思った。
だけど。
彼女の顔を、立ち上がった耳を、金色に光る目を、チラッと見てしまった時、僕の頭の中で何かがパチンと音を立てた。
ああ……見つけた。間違いない。
彼女は僕の半身。
封印されていた記憶が蘇ってくる。
僕たちは幼い頃に出会った。
運命だって、ひと目でわかった。
それなのに。
僕が孤児で、平民で、丸い耳しか持たない混血だから。僕たちが無力だったから。
相応しくないと引き離されたのだ。
僕は記憶を封印された。
彼女のこともそれまでの暮らしも思い出せないように。
彼女も僕に気付いた。
金色の目がまん丸に見開かれて、ぽかんと口を開けて。その顔が可愛くて笑いかけたら。
黒狐の王女様は護衛も側近も振り払って、僕に駆け寄ってきた。
「……会いたかった!!」
止める間もなく、首に抱きつかれる。
「殿下。人前です!」
「そんなの。だって、やっと会えたのに」
泣きそうな顔で王女様が笑った。
「ずっと、ずっとあなたを探していたんです。わたくし、そのために頑張ったんですよ」
8歳の時、僕は殺されかけたらしい。
薄汚い孤児の『運命』なら、いない方が王女のためだと。
だけど王女様が泣いて縋って、助命を懇願した。まだ7歳だった彼女が自分の命を盾に僕を生かした。
僕は記憶を消されて、異国に捨てられた。
王女様も僕に関する記憶を消されていた。
誰かと約束をしたことは覚えていたという。
王女様は何年もかけて周囲の大人たちと交渉し、どうにか説得して『再会できたらもう邪魔はしない』と約束させたそうだ。
僕は獣人の国の貴族の養子になった。
王女様と釣り合う身分を手に入れるためだ。
養い親は優しい人たちで、嫌な顔はせずに僕を受け入れてくれた。
僕の頭はそこそこ優秀である。
孤児が奨学金をもらって貴族も通う学院に入学できたくらいだ。
僕は必死になって貴族として必要な知識を身につけていった。
国際情勢や外交についても勉強している。
獣人と人間の混血であり、獣の特徴をほとんど持たない僕は、どうやら人間たちにとっては親しみやすいらしい。
この外見をうまく使えば、交渉がしやすくなる場面もあるだろう。
あの王女様の隣に居るためなら、僕は努力を惜しまない。
力をつけたい。味方を作りたい。
もう誰にも邪魔をされないように。
20年ほど経って。
人間にしか見えない混血が獣人の国の宰相になった。
人間の国で学んでいたこともある宰相閣下は、伴侶である黒狐の姫をそれはもう大切にしていたという。
11/13/2024, 11:35:49 PM