わしは古物商をやっている。いらなくなった物を売ってもらって、キレイにして別の人に売る商売だ。今風に言うとリサイクルショップってやつだ。
最近、『思い出の買取始めました』って貼り紙を出したんだよ。それが結構な評判でよくお客さんが来るようになったんだ。
どうやるかって?そりゃぁ企業秘密ってやつだ。まあ、簡単に説明するとお客さんに思い出話をしてもらってその記憶を取り出して思い出の玉にするんだな。もちろん売ってもらった思い出はお客さんの物じゃなくなるから、記憶から消えてしまう。
さあ、お客さんがやってきた。早速お話を聞こうじゃないか。
なに、好きな女の子に告白したけど上手くいかなかったって。
そりゃ残念だったな。しかし、こりゃいい。初夏の白桃の様なきれいな色をしている。良い思い出の玉になりそうだ。
ところでお客さん、その子を好きだった気持ちやドキドキした気持ちもなくなるがいいかい?
おや、もう少し考えるって?わかったよ、売りたくなったらまた来てくれ。
次は小学生の坊主だな。
なになに、サッカーでレギュラーになれなかったって。そりゃぁ辛かったな。休みの日も返上して練習したのにな。これも良い色だ。真夏の空の色だな。
ところで坊主、思い出と一緒に頑張って練習した事やお母さんやお父さんが応援してくれた思い出も無くなっちまうけど、構わないかい?
それは嫌だって?それじゃあ買い取れないんだよ。すまんな坊主。
お店の中をちらちら覗いている女性がいるな。
奥さん、どうした?話だけでも聞こうじゃないか。
なに、詐欺に遭ったって?そりゃ災難だったな。しかし、金木犀の様なきれいな色をしているよ。
奥さん、詐欺に遭った後の警戒心や家族が助けてくれた思い出なんかも,なくなっちまうけどいいかい?
やっぱり辞めるって?そうかい、そうかい。
評判はいいんだけどな、売るって言ってくるお客さんがなかなかいないんだよ。困ったねぇ。
さて、次はお前さんの話を聞かせてくれるかい?
———————
お題:忘れたくても忘れられない
10/17/2024, 11:43:57 PM