貴女と二人だけで始めた秘密の日記。同じクラスで休み時間も一緒。いつの日かそれだけでは飽きたらなくなって、私たちはもっと、もっと、お互いの心の奥に入り込みたくなっていた。
そんな時に彼女が提案したのが交換日記だった。自分の秘密を、ここに書こう。絶対に他の誰かに知られてはいけない、禁断の秘密。私たち二人だけのものにしてしまおう。そう誓った。
十二点のテストを親に見せずにゴミ箱に捨てた、そんな他愛ないことから、両親が最近仲良くない、離婚という単語が会話に出てくる、そんな大事まで。他の人に言えない、でも自分一人で抱え込むには重い秘密をノートに連ねた。
私も彼女に弱音を吐いた。
彼女もまた、私に嘆いた。
私たちはそんな関係で、何とか精神の均衡を保ってきた。
しかし、ある日を境にその関係は終わりを迎えた。
「私が今までひた隠しにしてきた、あなたにも言えなかった秘密、それは、あなたを愛しているということです」
間違いなく彼女の筆跡。それは恋文だった。彼女から、私への……。
なぜ彼女がその秘密を記したのかは分からない。私なら認めてもらえる、そう心を許してくれていたのかもしれない。
私は直ぐに返事を書くことができなかった。そして偶然、そのノートの中身を他のクラスメートに見られてしまったのだ。私が運悪く落としてしまったノートを彼らは面白おかしく読んだ。勿論、彼女の告白の部分も。
彼女は男子に歩み寄ってノートを取り返すと同時に弾けるように振り返って教室を出て行った。
噂は瞬く間に広がった。数多の尾鰭背鰭をつけて。
彼女は次の日から学校に来なくなった。
そして、彼女は死んだ。
形見分けとして返されたノートをはぐると、告白の続きに走り書きが書き加えてあるのを見つけた。
「好きになって、ごめんなさい」
もう返してはくれないことは分かってるけど、最後に私も言葉を綴る。
「私も、好きだったよ」
静かに、日記を閉じた。私たちだけの秘密が、ここに眠っている。この秘密を一生かけて守ってゆこう。この罪を一生かけて償おう。そう心に決めて、私は日記を封印した。
あれからずっと、日記は閉ざされたままだ。
1/18/2024, 1:51:40 PM