仲間は、電車に偶然乗り合わせた関係ぐらいがちょうど良い。
私の真向かいに座っている人は、熱海駅からずっとそこにいる。20の駅を通り過ぎたが、まだ一緒だ。
向こうはスマートフォンを触らず、本も新聞も読まず、膝に置いたパックバックを抱えて、私の背中にある窓を眺めている。
私は、静岡から神奈川まで見られる相模湾を肩越しで眺めた。波の輝きさえも望めなくなったら、向かい側の窓に映る秋映えの丹沢山を仰いだ。
だんだんと家々が増えてきたから、読書を始めるも、電車の揺れと暖房の暖かさに二度も舟を漕いだ。帰路を急ぐ群衆と共に東京駅を過ぎて、いよいよ私の地元が近づく。
反対席のあの人は、まだ座っている。もし同じ駅に降りたら、運命的な偶然を理由にパートナーになろうかなと期待に胸を膨らせる。とうとう、自宅の最寄駅に辿り着いた。降りながら電車の窓を覗くと、同乗者はまだ電車の中だった。なるほど、相手の旅はまだ終わっていないようだ。
旅は道連れという思い出までも手にした私は、その人に交差した二本指を見せて旅路の幸運を祈った。
(241210 仲間)
12/10/2024, 12:57:44 PM