木蘭

Open App

【恋物語】

恋をしたから小説家になった、
なんて言ったらあなたは笑うでしょうか。

なかなか眠りにつけない10代の頃、私の傍にはいつもラジオがありました。ボリュームは、いつも絞り気味。流れてくる声も音楽も、微かに耳に入る程度で聴くうちに、いつの間にか眠ってしまうのが日常でした。

その日もやっぱり眠れなくて、いろんな番組をちょっとずつ聴いていた午前2時。

「はじめまして。今日から始まるこの番組、よかったら最後までおつきあいください!」

それから午前5時までの3時間、私はいつもよりボリュームを上げ、彼の声に耳を傾けていました。何故かわからないけれど、彼の声は私の心の奥まで真っ直ぐ届く特別な声に感じました。

8年間続いた番組が終了する日、私は初めて番組宛にメールを送りました。番組内で読まれることなど期待していませんでしたが、あなたは番組の冒頭でそのメールを取り上げてくれました。

「明日、世界がなくなるとしたら何を願いますか?」

あなたの願いどおり、その日の放送は無事終了しました。私はというと、このままじゃ心臓がもたないというくらいドキドキして、ますます眠れなくなってしまったことを覚えています。

あなたに感じた特別な感情をどう表現すればいいんだろう。私は、架空のラジオ番組と登場人物でストーリーを創りました。それが、小説家としての私のデビュー作。そして、少しずつ自分の作品が知られるようになってきた今、あなたがパーソナリティを務めるラジオ番組にゲストとして呼んでいただけるとは。

明日、あなたに会ったら何から話そう?
緊張しすぎて言葉が出ないかもしれない。
でも、どうしてもこれだけは伝えなくちゃ。

「あなたに恋して小説家になれました」って。

5/19/2023, 9:34:57 AM