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私が好きな人は、女神像に恋をした。

夏の暑さから逃れるために入った教会の中にあった白い女神像。何気なく彼の目を見て、鳥肌が立った。見開いた目、釣り上がった口角。
これは…まずい。
私はすぐに彼を連れて、その教会を後にした。暑さとか気にしている場合では無かった。あのままもう少し長くあそこにいたら、もう彼が二度と戻って来てくれないような気がして。
彼はわけのわからないことをぶつぶつと呟いていた。私と別れる時も、その後も、ずっと。
「YHBH」
カタカタと笑っていた。

彼はその日からずっと教会に通っている。
回数はどんどん増えていって、私と会うことも少なくなっていく。
不安だ。
嫌な予感が胸の中で渦を巻く。
もう手遅れなのではないかと。
もう向こうの世界に行ってしまったのではないかと。

あの日から1ヶ月たったある日。
どうやら、彼が通っている教会が閉鎖するらしい。
資金不足だ…とウェブサイトには書いてある。
私はそれを見て安心してしまった。これで彼が教会に通うことはもうない、と。彼の女神像への愛を甘く見ていたのだ。

結論から言うと彼は死んだ。
死因は胸部からの出血による失血死。
場所は例の教会の、女神像の近く。
女神像を抱くようにして死んでいたらしい。
白い女神像は彼の血で真っ赤に濡れて…いや、正確には訳のわからない彼の血文字で埋め尽くされていた。
教会の関係者が言うことには、聖歌…だそうだ。

「この方はね…毎日この教会に来て、女神像に祈っていましたよ。ずっとブツブツと何かを唱えて…私には分からない言語でした。それはもう怖い様子で…
そして教会の閉鎖を聞いた時彼、狂ったように泣き喚いて。ちょっとした騒ぎになりました。取り押さえるのに数人必要で…そして今朝こんなことに…」
神父はため息をひとつついた後、呟いた。
「いつ何が、人を虜にするのか分かったものではありませんね」

9/12/2023, 1:26:25 PM