「他人語り」
『愛は地球を救う。』らしい。
不確かな愛が不確かな救うという定義を成し遂げるらしい。愛が救うのはきっと自分自身で、他人を救うには愛の他にもたくさんの物が必要だと、私は思う。
愛を持たずに生まれてきた彼。
仮に春仁としよう。
春仁は愛を持っていなかった。
親が愛してくれなかった。愛してくれないのは毒親なのか、また不確かな定義だ。
ともかく愛されず、愛することなど分かるはずもない春仁はきっと一人だった。
人の心を知ることはできないけれどきっと、寂しかった。雪のように真っ白な人生にきっとうんざりしていたのではないだろうか。
春仁は愛を持っていなかった。
それでも一人で旅をした。
人と関わり、美味しいものを食べ、幸せと思っていた。「幸せ」とは人によって違うもので、定義もしっかりとは分からない。
ただ彼の顔は笑顔で溢れていた。
彼は旅先のひとつの海辺に来ていた。
前を見渡すとただ広がる海。
浜辺に座ってぼーっとした。
すると後ろから足音が聴こえる。
勢いよく春仁の横を通りすぎたのは一人の踊り子だった。水色と桃色の薄い絹と、黒い衣装に身を包み美しく舞っていた。
美しい。雪のように儚く舞うのにも関わらず、強い
存在感を感じる。
気付いたときには彼女の腕を掴み走り出していた。
彼女の名前を仮に秋葉としよう。
秋葉は言った。
「どうしたのですか?」
春仁は言う。
「貴方を愛したいのです。」
続けて春仁は言う。
「僕と世界を旅してみませんか?」
秋葉ば戸惑ったように言い、脚の回転を止めた。
「私は貴方の思っているような女じゃないかもですよ。それにね、私は人を愛すことが分からないのです」
春仁は秋葉のそばに寄り言う。
「何事もはじめはなにも知らないのです。
2人で、『愛』というものを探してみるのもまた一興ではありませんか。」
愛を知らない彼は寂しくない。
愛を知ろうと愛している存在と共に過ごしているからだ。きっと本当の『愛』を見つけることは生きているうちに叶わないかもしれない。
それもまた一興。そういえるような存在がいることが彼と彼女の心をどれほど軽くしたのものか。
遠く遠くへと旅にでる2人はきっとすでに『愛』しあっているのではないだろうか。
10/31/2025, 2:51:50 PM