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二人揃って歩く桜並木。
珍しく日本に訪れた兄は、不思議そうにその光景を眺めていた。僕とは違うサラサラな金髪に青い瞳を持つ兄は、この花見スポットと言われる桜並木では浮いて見える。
「日本人は、皆サクラが好きなのか?」
こちらに目を向けず、桜に釘付けになりながら兄は問う。
僕ら兄弟はバラバラに住んでいたこともあり、兄は桜というものがどれ程日本で愛されているか知らない。昔会った時に説明すると、たかが花に何故そこまで必死になる?と純粋に首を傾げていた。
確かにそうだなと思ってしまった自分は、かなり日本の考えが染み付いていたようだ。
「皆かは分からないけど、好きな人は多いと思う。」
ザーっと音を立てて吹く風に、誘われるように散る花びら。ふわふわと舞う桃色が兄の色白の肌と色素の薄い髪を際立たせ、美しい絵を見ているような錯覚に陥るほど綺麗だった。
「…確かに、君が言う通り綺麗だな。」
今まで桜に向いていた青がこちらに向き、兄は少しだけ口角を上げて笑う。
久しぶりに見た兄の笑顔に、ぴしりと固まってしまった体で、目だけがその美しい光景を焼き付けようと動く。僕の黒髪と濡羽色とは正反対な容姿を持つ兄を、密かに誇らしく思う。昔はそれがコンプレックスになったこともあったけど、兄が褒めてくれた瞳の色は今では僕の自慢だ。

突然、今までで一番強い風が低い音を立てて吹いてきた。思わず目を瞑り、強い桜の香りが僕の鼻を刺激する。風も強いし、そろそろ帰ろう。そう言おうとして薄目で兄を見た。けど、
「に、さ…」
声は掠れた。ふわりと舞った地面の桜と振り落とされた花びらに、兄は隠されたように姿を桜の吹雪の中へと消した。
目の前が桃色に染って、ふと昔の記憶を引っ張り出した。
『美しい人は、桜に攫われるんだねぇ。』
近所のおじいさんが優しく微笑んで言った言葉。
美しい人、兄にピッタリだ。
「兄さん!」
思わず桜の中に伸ばした腕が、空を切る。なんてことはなく、がっしりと誰かに掴まれた。風が止み、目の前に兄は現れた。なんとなく今まで考えていたことが恥ずかしくなってきて、誤魔化そうと頭の中に言葉を浮かべる。何を言おうか迷っていると、兄の方が先に言葉を紡いだ。

「桜の中に消えそうだったな。」

どうやら兄弟、同じことを考えていたようだ。
少しおかしくなって、笑ってしまった。

4/17/2023, 12:46:24 PM