《遠く・・・》
遠くから声が聞こえる
『たすけて・・・』
時折すすり泣きも聞こえる
まただ、また聞こえる。
深夜、シーンと静まりかえった時間に聞こえる声。
声だけだ、周りには何もいない、もしかして見えないだけかもしれないが、、
私は震えながら布団を頭までかぶり、耳をふさぎ、ただただ時が過ぎ去るのを待った。
私は雪沢カナ、大学生だ。
上京し、アパートで一人暮らしを始めてから、怪現象が起こりはじめた。
助けを求める声や、すすり泣きが聞こえる。
決まってシーンと静まり返った夜更けに聞こえる。
はぁ・・・、引っ越したい。
しかしやっと見つけたお手頃な家賃のアパート。
新生活を始めたばかりで、バイトもまだ探せてないカナは金銭的な事情で引っ越したくても、引っ越せないのだ。
お祓いとかしてもらった方がいいのかな・・・。
もしお祓いしてもらうにしても、土地勘のないところだ。
お祓いを請け負ってくれる人がいるのかどうかもわからない。
明日、大学の友達に聞いてみよう。
怖がりながらもカナは眠りについた。
***
大学に行ったカナは、友人のトモカを捕まえて、最近の怪現象を話した。
「ええ?何それ、怖いっ」
「私も怖いよ、、トモカどこかお祓いしてくれる所知らない?」
「お祓い出来るかどうかは知らないけど、私の知り合いに霊が見える人がいるよ、しょっちゅう見えるからお守りに数珠をつけてるって」
「その人紹介してほしい、お願いっ」
カナは手のひらを合わせて頼み込んだ。
「うーん、とりあえず聞いてみるよ、ただ見えるって言ってただけだから、祓えるかはわからないよ」
「ありがとう、トモカ恩にきるよ、今度なんか奢らせて」
「はいはい、んじゃまた連絡するね」
***
数日後、トモカから電話があった。
「あ、カナ?例の人OKだって」
「本当に!?ありがとう、毎日怖くて怖くて・・・」
「その人、河村さんっていって、最初は断られたんだけど、その夜に河村さんの枕元に亡くなったお婆ちゃんが立って、お婆ちゃんから行ってあげてって言われたんだって」
「その話がすでに怖い」
カナは身震いした。
「まぁなんにせよ、河村さんと週末行くね、明日カナの家の行き方教えて」
「わかった、本当に助かるよ、河村さんにもよろしくお願いしますって言っておいてね」
***
そして、トモカと河村さんが来る週末が来た。
怪奇現象の起こる夜に来てもらった。
「どうも、河村ヒロトと言います」
河村は同じ大学の先輩らしい、トモカとは家が近所だったとか。
「あ、初めまして、雪沢カナといいます、このたびは来ていただいて本当にありが」
「早速部屋に入らせてもらっていい?」
カナの挨拶を遮って河村は言った。
「あ、ごめん、亡くなった祖母が早く行った方がいいと言ってたから」
「わかりました、こちらです」
カナはアパートの階段をあがりながら自分の部屋に案内する。
カナの部屋は205号室。
2階には206号室まであり、201号室が手前で206号室が1番奥になっている。
扉を開け、カナを筆頭に河村とトモカも中に入る。
まだ引っ越して間もない、必要な物だけが最低限揃ったシンプルな部屋だ。
壁際にベッドがあり、中央のラグの上にテーブルがある。
「コーヒーでも入れます、座って待っててください」
河村とトモカがラグの上に座り、カナを待っていると、すすり泣きのような声が聞こえてきた。
「え!?なに?本当に聞こえるんだけど」
トモカが引き攣った顔をしながら騒ぐ。
「しっ、静かに」
河村がトモカを嗜める。
河村は目を閉じ、すすり泣きを聞いている。
「雪沢さん、この声は霊ではありません、この部屋にそういった類の霊は見えません」
河村は立ち上がり、壁に耳を寄せた。
「こっちから聞こえる、雪沢さん、隣の部屋は突き当たりの206号室でしたよね?」
壁に耳を当てたまま河村が聞く。
「はい、そうです」
壁に耳を当てる河村を訝しげに見つめカナは言う。
「206号室に行きましょう」
河村はそう言い、玄関ドアの方に向かって歩き出した。
206号室の前に来た3人。
河村が206号室の玄関の呼び鈴を押す。
返事がない。
もう一度呼び鈴を押すが、やはり返事がない。
(ドンドンドンっ)
ドアを叩くが無反応だ。
「警察に連絡して中の様子を確認してもらおう」
河村はそう言いながらスマホで警察に連絡し、状況を説明した。
ほどなくして、警察が慌てた様子でやってきた。
部屋の家主に警察が連絡したところ、繋がったもののこの部屋にはいない事が分かった。
この部屋には女性が1人と、3歳と5歳の子供が住んでいる。
女性がこの部屋にいないのに、この部屋から声がするという事は、子供だけがこの部屋に取り残されている可能性があるという事だ。
警察で緊急性が高いと判断され、鍵が開けられる事になった。
ドアを開け、中を調べると、中には倒れている子供が2人いた。
息はあるらしい。
私達はあとで事情を聞きますと言われ、一旦部屋に帰らされされた。
その後、警察に子供達は救急車で運ばれ、一命を取りとめたと聞いた。
隣の女は子供を3週間近くも放置し、男の部屋にいたとの事だ、許せない、自分の事しか考えてない女にカナは怒りを感じた。
子供はその間、水や菓子など食べられそうな物を全て食べ、なんとか生きていたが、いよいよ食べる物も尽きて危なかったところだったそうだ。
私たちがあと1日でも遅く行動していたら、と思うと恐ろしい・・・、子供達が助かって本当に良かった。
深夜帯にしか声が聞こえなかったのは、単純に昼間は外の雑音で声が届かなかっただけのようだ。
カナは河村とトモカにお礼を言い、後日お礼に食事をご馳走する事にした。
それにしてもこの部屋壁薄すぎ。
お金が貯まったらやっぱり引っ越そうと思ったカナだった。
2/9/2025, 9:10:13 AM